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「サッカーファン以外こそ見て欲しい」鹿島アントラーズ密着ドキュメンタリーの裏側

人口6.6万人、太平洋に面し臨海工業地帯として発展してきた、茨城県鹿嶋市。

この地にホームスタジアムを構えるのが、国内最多タイトル数を誇る名門サッカークラブ・鹿島アントラーズです。

U-NEXTでは同クラブに密着した初の長編ドキュメンタリー 『FOOTBALL DREAM 鹿島アントラーズの栄光と苦悩』を独占配信しています。茨城の片田舎に生まれた弱小チームが、サッカーの“神様”と呼ばれるジーコを招聘し、不可能と言われていたJリーグへ参加。国内屈指のクラブチームへと成長するまでの“奇跡”と、その歴史の上でもがき苦しんだ2020〜21年シーズンを行き来する本作。

「単なる“サッカーファンのためのスポーツドキュメンタリー”ではなく、『明日も頑張ろう』と元気をくれる、すべての人のための映像作品」と、U-NEXT映画部部長の林健太郎は評します。

その作品はいかに生まれたのか、そして2年にわたり密着し計3000時間もあった素材は、いかに全8話・約7.5時間の映像作品へと昇華されたのか。本作の制作を担当された、鹿島アントラーズの神戸佑介さん、監督の金沢達也さん、プロデューサー​​の三宅伸行さんのお三方に、林が聞きました。

左から鹿島アントラーズの神戸佑介さん、監督の金沢達也さん、プロデューサー​​の三宅伸行さん

「作るなら、映画のような作品にしたい」

林:『FOOTBALL DREAM』、ものすごく感動しました。実を言うと、それまでJリーグの試合はあまり見ていなかったんです。ですが、本作を見てからアントラーズの成績を自然と追いかけている自分がいます。

なぜ、アントラーズのドキュメンタリーを制作することになったのか。まずはそのきっかけについて教えてください。

神戸:2020年の新型コロナウイルス感染症の世界的流行が一つのきっかけでした。スタジアムへの入場可能数の制限やイベントの中止などを余儀なくされる中で、これまでの経験も活かして「映像」を使って何か新たな企画を生み出せないかと考え始めたのが、出発点になりました。

また、その時期は自宅で過ごす時間が増えたこともあり、ちょうど海外のスポーツドキュメンタリー作品をいくつか見ていたタイミングで。「アントラーズのドキュメンタリー作品も作りたい」という想いが少しずつ大きくなっていました。

その後、ドキュメンタリー制作を企画書にして社内に提案し、クラブが創設30周年を迎える2021年に向けた立ち上がった創設30周年プロジェクトの一環として始動することになりました。

神戸佑介|株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シー 映像ビジネスチーム リーダー。2005年より静岡新聞社静岡放送で新聞・テレビの報道記者を担当後、2009年日本プロサッカーリーグ(以下Jリーグ)入局。集客プロモーション・チケッティング、競技運営などを担当後、2012年10月より鹿島アントラーズに出向。地域連携、新規事業開発などに携わる。2015年1月にJリーグ帰任後、広報、事業を経て、2016年10月よりJリーグメディアプロモーションに出向し、Jリーグ公式映像制作の事業化を担当した。2020年2月鹿島アントラーズに入社。現在まで試合中継制作のほか、本作品をはじめとする映像コンテンツの企画制作・販売管理など事業全般を担当する。

林:金沢さんが監督に決まったのは、どのような経緯からだったのでしょうか?

金沢:神戸さんから、「作品の監督を依頼できそうな方に心当たりはないか」と相談をいただいたのが始まりですね。

アントラーズのサポーターである必要はないが、サッカーにはある程度精通していた方が良い。それでいて、映画制作の経験や知識を持っているのがベスト……そんなアドバイスを電話越しに続けているうちに、頭の中で「あ、これ俺だな」って(笑)。

ただ、正直に言って最初は葛藤しました。サッカー番組やドキュメンタリー作品に携わってきた経験があるからこそ、大変な仕事になると想像できたからです。それでも、最終的には「やってみよう」と。ひとまず神戸さんとお会いする約束をして、その日は電話を切りました。

金沢達也|萩本欽一主宰の欽ちゃん劇団入団後、萩本の薦めで放送作家に転身。以降、様々なバラエティ番組や『スーパーサッカー』、『セリエAダイジェスト』といったサッカー番組を手掛け、中継の構成を担当した2002FIFAワールドカップ『日本vsロシア』戦は66.1%の視聴率を記録した。その後、ドラマ『華麗なるスパイ』で脚本家デビューを果たし、映画『暗殺教室』、ドラマ『死亡フラグが立ちました!』、『ナンバMG5』などの作品を手掛ける。今作『FOOTBALL DREAM 鹿島アントラーズの栄光と苦悩』が初監督作品となる。

神戸:後日、下北沢のカフェで待ち合わせて、金沢さんに企画書を見せながらどんな作品が作りたいかを話しました。僕からしたら、金沢さんはまさに大物。なので、ご自身が監督を引き受けてくれることはないだろうと思っていたんです。

ただ、そこで話した企画内容に対して、金沢さんがすごく関心を持ってくださって。どんなストーリーにしたいかその時点で具体的にイメージできたからこそ、食いついてもらえたのだろうと感じます。

金沢:「もし引き受けさせていただけるなら、映画のような作品が作りたい」と神戸さんに伝えました。すると神戸さんが、「僕もそのつもりで企画しました」と。何を作るかの目線が最初から重なっていたことが、お引き受けする決め手の一つになりました。

歴史と今を往復しながら、アントラーズの「真実」を描き出す

林:この作品の魅力の一つは、アントラーズのサポーターやサッカーファンだけでなく、より広い方々が楽しめる内容になっていることですよね。個人的には、まずは第2話まで見てほしい。第2話まで見れば、間違いなくこの作品の面白さを感じられると思うので。

「99.9999%不可能」と言われたところから、Jリーグ参入への道を一丸となって切り開いていく……という物語は、サッカーやスポーツの域を超え、様々な世界に通ずるなと。まさに、一つの映画作品を味わっているような感覚でした。

神戸:そう言っていただけて嬉しいです。というのも、この作品を通して最も表現したかったのは「鹿島アントラーズが社会において、どういう存在であり続けてきたか」ということだからです。

アントラーズが社会とどのようにつながり、どんな役割を果たしてきたのか。それをサッカーだけでなく、それ以外の色々な側面も切り取りながら、より広い視野で伝えたいと考えていました。自分たちで作るからこそ、ある種の客観性は不可欠。単なる思い出話で終わらないように……というのは重視しました。

三宅:神戸さんは、初めてお会いしたその日から一貫して「社会において存在する意味を伝えたい」と言い続けていましたね。サッカーファンだけでなく、より多くの人に届く作品にしたいと。純粋にすごく良いなと思いました。

三宅 伸行|株式会社ガゼボフィルム 代表取締役。京都出身。同志社大学を卒業後、広告代理店に勤務。その後、映画監督を志し渡米。ニューヨーク市立大学院にて映画制作を学ぶ。短編作品で数多くの映画祭で受賞した後、長編作品『Lost & Found』を監督し、2008オースティン映画祭にてグランプリに輝いた。2017年に監督した短編作品『サイレン』は、国内外の映画祭で賞に輝いた。映像プロダクション ガゼボフィルムを立ち上げ、CM、プロモーション映像、ドキュメンタリーを制作している。4月より監督作品となる長編映画『世の中にたえて桜のなかりせば』が公開中。

神戸:「アントラーズの名前はなんとなく聞いたことがある人」を主な視聴者としてイメージしていました。全くアントラーズを知らないという人も含めて、一人でも多くにこのクラブの魅力に触れてほしい。そのためには、アントラーズの今だけではなく、歴史も紐解いていく必要があると考えたんです。

林:たしかに、本作は過去と現在を行ったり来たりしながら、歴史と今の様々なつながりを描き出す構成になっていますよね。

金沢:そうですね。ドキュメンタリーとして現在に密着しながら、その合間で繰り返し、様々な過去のエピソードが登場する構成です。ただ乱暴に回想するのではなく、現在のアントラーズが向き合う課題や置かれた状況に紐付ける形で、象徴的な過去の出来事を今につながる物語として描いています。

この構成のスタイルは、僕が劇場版『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』のスピンオフドラマの脚本を担当した際に身につけたものです。ある登場人物がヘリコプターに乗れなくなってしまい、その背景にあるトラウマの正体を過去と今のエピソードを往復しながら描いていく。

神戸:たとえば『オール・オア・ナッシング』(※)は、過去に繰り返しさかのぼるようなことはせず、基本的には現在に焦点を当てて物語が進んでいきます。その方が、作品としてはわかりやすいかもしれません。

一方で『FOOTBALL DREAM』には、時間を行ったり来たりすることによるわかりづらさがあるかもしれない。それでも、アントラーズというクラブの今をより正確に伝える上では、歴史とのつながりも合わせて描き出すことが不可欠だと考えたんです。歴史と今、その二つが揃って初めて、アントラーズの「真実」を伝えられるはずだと。

※Amazon Prime Videoオリジナル作品として配信されている、スポーツドキュメンタリーシリーズ。欧州サッカーやアメリカン・フットボールにおける有名チームの裏側に密着した作品。

一人ひとりの「考え抜く」が、唯一無二の作品を生み出した

林:なるほど。どんな理由であの構成になっていたか、とてもよくわかりました。

作品の細部に目を向けてみると、そこでも本当に様々な工夫が凝らされていますよね。たとえば、登場する方々のインタビューシーン。どれも映像作品としてのクオリティがすごく高い。特にそれぞれの撮影場所に対するこだわりについて、アントラーズの公式noteに書かれている内容を読んで驚かされました。ここまでこだわっていたのかと。

神戸:当初から撮影スタッフとも一致していたのは、映像作品としての美しさを求めることでした。特に、インタビュー撮影にはこだわりました。なるべく同じロケーションにならないよう、背景設定は工夫しました。活動範囲に制約のある現役選手以外の方は、ほぼすべて違うロケーションになっています。時には撮影が難しい環境もありましたが、プロの撮影スタッフの皆さんが音声収録や照明にも工夫を凝らしてくれたため、美しい映像を実現することができました。撮影場所探しを通じて、プロの手にかかるといつもの風景がこんなにも美しく映るものなんだという新鮮な驚きがありました。

泣く泣くカットしたシーンも少し公開!ドキュメンタリー撮影の裏側
林健太郎|U-NEXT映画部 部長

金沢:特に意識していたのは、それぞれの「人となり」まで感じられるようなインタビューにすることです。そのためには、仕事をはじめそれぞれの日常が垣間見える場所で行う必要がある。ともすれば、部屋の一角の壁際のような奥行きがない場所で設定して、なんとなく良いからといって撮影を始めてしまう。ただ、それでは映像としての美しさも引き出せないし、人となりも見えてこない。ベストな背景はどこなのか、一つひとつのシーンに対してギリギリまで考え続けていました。

たとえば、撮影当時に監督を務めていた相馬直樹さんのインタビューは、最後の最後まで場所を考え続けたシーンの一つです。最終的には、相馬さんが選手やスタッフとのミーティングでよく使用する部屋でセッティングし、座り位置を調整した上で、奥行きが出るように撮りました。

林:今までカメラが入らなかったところまで入る必要もあったと思います。その中での苦労や印象的だったことはありましたか?

三宅:そうですね。特に印象的だったのは、ロッカールームの神聖さでしょうか。素人でも、ここは本当に入っちゃいけないんだと感じる場所でした。ただ、「入ってはいけないところ」に入るのは映像としては魅力的なので、案配が難しかったです。例えば、選手がけがをした時など重大な事象が起きたときに、カメラを回せるか回せないか。そういった駆け引きが現場では常にありましたね。

林:そこは空気を読みつつ……チャレンジしていたんですね。

神戸:チームと調整するのも私の仕事だったのですが、とても難しかったです。撮影許可をもらって進めているものの、現場の隅々まで浸透させるのは容易ではありません。しかも、カメラが回っていると選手は少なからず“オン”になります。それは回り回って、チームのパフォーマンスにちょっとずつ影響が出る可能性も否定できません。そうなってしまわないよう、ギリギリのラインを見定めるのは非常に難しいタスクでした。

このクラブでは皆が、「すべては勝利のために」というミッションに基づいて働いています。そこから考えると、撮影によって勝ち点を減らしたら本末転倒です。だからこそ、案配を丁寧に見極めながら、様々なスタッフとやりとりして調整を重ねていました。

三宅:他のチームに密着したことがないので正確ではないと思うのですが、きっとアントラーズは「密着しにくいチーム」なんだなと感じましたね。

林:それはなぜでしょう?

三宅:うまく言えないのですが…………系譜というか……硬派なんですよ。選手の皆さん、チャラチャラしてないですし、ストイックに、サッカーに向き合っている。

金沢:まさに。寺野典子さんが密着されて書かれた『頂はいつも遠くに 鹿島アントラーズの30年』(集英社)の中でも「はじめて来た人は絶対怖い」といった旨が書かれていますが、それは少し分かりました。誰か個人ではないんです。“空気”のようなものが怖い。

三宅:真面目に、真剣にやってるんですよね、本当に。

林:撮影のカットでいうと、要所で挟まれる空撮も印象的でした。どのシーンも美しかったですね。

神戸:空撮は、チームの密着撮影を行っていただいた映像作家の竹内佳嗣さんに撮影いただきました。作品のスケールを大きくするためには空撮が必要だろうと感じている中で、すぐに竹内さんが思い浮かびました。というのも竹内さんは過去にJリーグの案件で全国のスタジアム空撮を行った実績があり、スタジアムを美しく撮るのに長けた方だったので、『FOOTBALL DREAM』の企画がスタートしてから真っ先に声をかけました。スケジュールを1年間押さえ、鹿嶋市に住み込みで撮影にあたってもらったんです。空撮に関しては、もうとにかく、竹内さんの好きなときに撮ってほしいと。

林:住み込みはすごいですね。あの空撮の美しさは、竹内さんの技があったからこそだったのですね。

神戸:そのとおりです。竹内さんの空撮によってあらためて鹿嶋という地域の特異な地形だったり、スタジアムがいかに特殊な場所に存在しているかがわかり、いろいろな発見があったように思います。さらに竹内さんご自身もサッカー経験があって、人物撮影の経験もある方だったので、チーム撮影と併せて今回のプロジェクトと非常に相性が良い方でした。

林:あとは、映像だけでなく、音楽も映像作品の品質を感じさせるゆえんだなと感じました。音楽についても、こだわった点を教えてください。

三宅:音楽は映画やテレビドラマ、舞台などを中心に作曲されている白石めぐみさんに担当いただきました。金沢さんも含めて色々と話し合いながら、メインテーマソングの制作から一緒に進行させていきました。

本編の制作が進むにつれて、僕たちからのリクエストも次第に増えていって。たとえば「ジーコのテーマを作ってください」とか、より具体的なオーダーが増えていたと思います。今思えば、何曲作っていただいたんだろうという感じですね(笑)。

金沢:どのリクエストに対しても、すごく丁寧に応えてくださいました。メインテーマソングに関しては、最初に聴いた瞬間から「これは良いな」と感じたのを覚えています。

三宅:何気ない日常のシーンでも、白石さんの作った音楽を挿入することでガラッと印象が変わることもありました。本編の編集をしていて、助けられた場面が何度もありましたね。

林:それでいうと、ナレーションも絶妙でしたよね。説明的なシーンもナレーションが入ることで雰囲気が出る。しかも「すごく良い声」なんですよ。これ誰の声なんだろう?と気になりながら作品を見ていました。第1話のエンドロールを見たら「トニー・クロスビー」の名前が目に入ってきて。「え、あのトニーさん?」と正直驚きました。(※)

※トニー・クロスビーさんは、スタイリストとして活躍するかたわら、「セリエAダイジェスト」をはじめとした人気サッカー番組にコメンテーターとして数多く出演してきた人物。日本のサッカーファンにとってはお馴染みの存在。

三宅:まず「ナレーションを英語にするかどうか」の議論が、制作チームの中でありました。金沢さんは、 制作開始当初から英語が良いとおっしゃっていましたよね。

神戸:日本の作品なのにナレーションが英語であることの違和感はないかなど、色々な可能性について検討しましたね。その上で、最終的には金沢さんのこだわりにかけてみようと。終わってみれば、英語にして良かったと思っています。日本語だと少し不自然に聞こえるセリフもスムーズに入れることができた点も含めて、たしかにバランスはすごく良い。

金沢:僕はトニーと友人でよく遊ぶのですが、以前から「いい声してるなあ」と思っていて。視聴者に与える印象や耳触りなどから声を考えるのですが、トニーの声には他にはない心地良さがあった。

トニーはリヴァプール出身で、おそらく出身地のなまりの影響もあると思っています。なんとなくですが、茨城弁のなまりとも通ずる部分があるのではないかとも考えていました。

またリヴァプールといえば、世界でも有名なリヴァプールFCの本拠地でもある。リヴァプールFCのチームカラーは、アントラーズと同じ赤色。しかも、リヴァプールは鹿嶋市と同じく港湾都市でもある。なんだか、今回の作品との共通項がたくさんあるように思えてきたことも、トニーに依頼した理由でしたね。

神戸:そこまで深く考えていたのは知らなかったです(笑)。 個人的には、トニーさんの英語力にも助けられました。サッカーに関するボキャブラリーが豊富であり、本場で育った人だからこそ、単に原稿を読むだけではなく、英語表現の提案もしてくれたんです。トニーさんだったからこそ、ナレーションの文章品質もぐっと上がったと感じています。

アントラーズは「奇跡」ではなく、「挑戦」の連続によって生まれた

林:ここまで制作の裏話を色々と伺ってきましたが、当然思い通りにいかないこともたくさんあっただろうと想像します。個人的には、膨大な映像素材を全8話、約8時間に収めることに苦労があったのではないかと思っていて。公式サイトには「3000時間におよぶ密着撮影」とありますが、どうやってそれらの素材を凝縮していったのか、正直に言って想像がつきません。

三宅:編集の前に、下編集というステップを挟むようにしていました。具体的には、撮影したその日のダイジェストを日ごとに作成し、後日複数のダイジェストをもとに本編映像の編集を進めていくといった流れです。

インタビューカットも同じように、下編集を行っていました。取れたインタビューを一度全てつないで1本の映像にし、本編の編集はそれを素材として使いながら進めていきました。ただ正直に言うと、途中から下編集の作業が本編の制作に追いつかなくなってきてしまって(笑)。そこからはなんとか試行錯誤しながら完成にたどり着きました。

神戸:あとはそれらの編集含めて、制作において必要な体制規模の想像がつかなかったのも、悩んだ点の一つでしたよね。私たちにとって初めての経験だったこともあり、最終的には当初の想定とは大きく異なる体制で進めることになりました。

三宅:そうですね。PCなどの機材はどこまでのスペックのものがどれだけ必要なのかとか、この撮影の場合カメラは何台必要で、どこにどうやってセッティングすれば良いのかとか……色々と探りながらやっていたことがいくつもありましたね。

林:なるほど。あとは「作品をどう終わらせるか」にも苦労があったのではないかと想像しています。当然ながら、制作中も今この瞬間アントラーズで何が起きるかは誰もわからないし、現実は常に動き続けている。その上で、どのように終わらせようと想定していたのかが気になっていました。

三宅:制作を進めていく中で、当初は「奇跡」とか「ミラクル」といった言葉が、終わりを迎える上でのキーワードになるのではないかと想定していました。僕たちにとって、それらが制作を進める上での一つのテーマだったんです。

一方で、撮影当時のアントラーズは不調の真っただ中にあって、なかなか試合に勝てない。もがくチームを見る中で、僕たちの中で新たに立ち上がってきたのが「挑戦」というキーワードでした。その言葉が終わり方も含めて、構成の変化に大きく影響を与えたのは間違いありません。

金沢:「僕らがわかっていなかっただけなのかもしれない」と気づかされましたね。制作をスタートした時点では、鹿島アントラーズは奇跡によって生まれた魔法にかけられたようなクラブであり、その過程を紐解いていこうと考えていました。

神戸:ただそのストーリーを追い求めて、過去にさかのぼっていけばいくほど、「このクラブは、とんでもない『挑戦』をしてきたんだな」と。サッカーが何も根付いていない街に、文字通り一から開拓して作り上げてきた。改めて、その事実に気づくことができたと思っています。

三宅:だからこそ、やっぱり終わりも「挑戦」であるべきなのではないかという話になって。王者・川崎フロンターレとの戦いも含めて、最後を「挑戦」というテーマで締めくくろうという着想は、そういった僕たち自身の変化も影響して生まれたものでした。

林:とても面白いですね。まさに、終わり方も含めて本当に元気をくれる素晴らしい作品だと思います。繰り返しになりますが、サッカーファンに限らず多くの人に、この作品が届いて欲しいですね。皆さん、本日はありがとうございました。

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