d.school、メルカリを経て、僕がU-NEXTのCXOになった理由
はじめまして、U-NEXT CXOのジャスパー・ウ(Jasper Wu)と申します。
僕は2019年9月に入社し、プロダクト開発やデザイン、ブランディングなどエクスペリエンス全体を統括しています。
僕は台湾の大学を卒業した後、スタンフォード大学のd.schoolでデザイン思考を学び、SamsungやメルカリでUXデザインに携わってきました。会社以外では、デザイン思考を学ぶためのワークショップやトレーニングをおこなっています。
そんな僕が、なぜ動画配信ストリーミングサービスを提供するU-NEXTにジョインしたのか。少し長い自己紹介の形でお話しできればと思います。
ロボットの失敗と、デザイン思考との出会い
そもそも僕がデザイン思考に関心をもつきっかけは大学生時代に遡ります。台湾国立大学でロボット工学を研究していた僕は、人間とふれあうロボットを開発していました。
人型ロボットには顔認識技術を用いて、人間の動きに反応して歌ったり踊ったりする機能を搭載しました。しかし、あるイベントでその人型ロボットが来場者と交流する機会を設けると、驚くほど来場者の反応が薄かったんです。
いったい何がだめだったのか。
どうすれば関わりたくなるロボットをつくれるのか。
調べていくなかで出会ったのが「デザイン思考」や「人間中心設計」です。
それまで技術中心で物事を考えていた僕にとって、人々のニーズを起点に考えるという営みは、とても新鮮に映りました。また、それによって人々の生活がより良くできることにとてもワクワクしたのを覚えています。
その考え方をより深く理解したいと思い、大学卒業後にはデザイン思考の“総本山”スタンフォードのd.schoolに進学しました。
「日本のマインドセットを変えるのは難しい」は本当か
d.schoolでは、徹底してユーザーインタビューをおこないます。
1日目から「引っ越してきた住民にとっての体験」や「インスタントヌードルを食べる体験」など様々な問いが与えられ、インタビューから得たインサイトをもとに体験を設計し続けました。可能な限り多くの人から話を聞き、インサイトを探し出した経験は今でも糧になっています。
他にも、d.schoolでは今の仕事につながる重要な経験が得られました。当時、日本でデザイン思考が注目を集めたタイミングだったこともあり、デザイン思考に関心のある日本人がたくさん視察に訪れていたんです。彼らに学内を案内しながら、日本の状況について聞いていると、共通して口にすることがあると気づきました。
「日本人はデザイン思考に関心があるが、正しくおこなえていない」「デザインシンキングをマインドセットではなく、決まったプロセスとして捉えている」そして「日本人のマインドセットを変えるのは難しい」ということです。
僕はデザイン思考が個人や組織のクリエイティビティを開放し、人々の生活をより良くするアイディアを生むと信じています。だからこそ、日本で働く機会があればマインドセットの変容を促すような取り組みたいと考えるようになりました。
日本のクリエイティビティを解放する挑戦の日々
卒業後はSamsungで働いたのち、2016年に来日。楽天やメルカリで、日本企業でデザイン思考をどう実践していくか試行錯誤を続けてきました。
なかでも印象的だったのは、ユーザーリサーチ手法をリデザインした経験です。僕が働いた企業では、ユーザーリサーチ自体はおこなっていたものの、毎回決まった手法や質問項目でおこなっていました。
ただ、本来ユーザーリサーチは、目的や対象者に応じて取り入れるべきメソドロジーを変えるもの。少し意地悪な言い方をすると、当時は参考書通りの手法論に終始していたんですね。
d.schoolで聞いた「正しい方法で行われていない」とは、こういう状態なのかと思いました。同時に、具体のメソトロジーだけではなく、根っこにある考え方から丁寧に伝える必要があると感じました。デザイン思考への本質的な理解が深まれば、もっとフレキシブルに活用できるはずだ、と。
そこで、ユーザーリサーチやスプリントの開発といった通常業務のかたわら、デザイン思考を広める社内ワークショップを実施しました。幸いにも、立場にかかわらずオープンマインドな方が多く、能動的に学び日頃の業務で実践してくれるようになりました。
並行して、個人でもデザイン思考を教えるための活動もスタート。デザイン思考のワークショップをおこなったり、教育用のツールキットを制作したりしています。2019年には、『実践 スタンフォード式 デザイン思考 世界一クリエイティブな問題解決』という書籍を出版する機会もいただきました。
書籍を出してからは、伝統的な商社や百貨店、政府機関からもワークショップの依頼をいただくようになり、徐々に日本でもデザインや顧客視点の重要性が認識され始めていると感じてます。
U-NEXTを知らなかった僕が入社を決意するまで
さて、やっとU-NEXTのお話です。
といっても、当時僕はU-NEXTをまったく知りませんでした(笑)。元同僚に声をかけられ、はじめて調べてみたくらいです。
ただ、U-NEXTがストリーミングサービスだと知りとても興味を惹かれました。ストリーミングサービスの流行は、”ソーシャルからパーソナル“という人々の求める体験の変化を示していると注目していたからです。
SNSの普及から10年以上が経ち、鳴り止まない通知にうんざりしている人は少なくありません。いつでもどこでも誰かとつながれるからこそ、私たちは静かに内省したり、大切な家族と過ごしたりして、心を満たす時間を求めるようになりました。そんなニーズに応えたのがNetflixやHulu、Prime Videoといったストリーミングサービスでしょう。
では今後、ストリーミングサービスによって人々の体験はどう変わっていくのか。いちデザイナーとして、実際にサービスに携わりながら探求できたら面白そうだと考えました。
また、僕は昔からテクノロジーと人間の関係に関心があります。モバイルや5G、AR/VRといった技術の影響を考えるうえで、エンターテイメント業界はとても興味深いと思ったんです。
そこでU-NEXTのCTOやデータサイエンティスト、デザインの責任者との面談をセットしてもらいました。面談では「どうすればユーザーのエンゲージメントを高められるか」を議論。みな能動的に場に参加し、新しいアイディアやインサイトにたどり着こうとして、面談というよりブレインストーミングのような時間でした。こうやって問題解決に取り組めるチームと一緒に働けたら幸せだな、と感じたのを覚えています。
加えて、CEOの堤さんのビジョンも魅力的でした。U-NEXTは動画や電子書籍、音楽を一つのプラットフォームで提供しています。つまり、幅広いコンテンツをまとめて、シームレスなエンターテイメント体験をつくろうとしている。
ただ、機能やコンテンツを足すのは簡単ですが、それを一連の優れた体験として届けるのは、とても難しい。だからこそ挑む価値があるし、僕もその船に乗ろうと思ったんです。
U-NEXTで開催された『Design Sprint Tokyo』
人間にとって優れたストリーミング体験をつくりたい
入社後は、“体験”という軸で複数のチームを横断的にみています。どのチームも優れたスキルや経験を持つ人が集まっていますが、互いの部署について知らないことも多い。僕の役割は、各部署の間で点と点をつなぐとともに、プロダクト開発やデザインのプロセスに顧客の視点を入れていくことです。
“体験”をデザインするとは、決してマーケティングキャンペーンの実施や、サービスの機能アップデートといった、一時的な施策をおこなうことではありません。入口から出口まで、顧客が満足できる一貫した体験を届けなければいけない。
そのためには、チーム間の情報共有と顧客理解の向上は欠かせません。しかし、U-NEXTを含む多くの日本企業で十分に取り組んでこなかったように思います。今注力しているのは、その基礎を固めること。
具体的には、部署を超えて顧客データを共有、分析するためのプラットフォームの立ち上げと、ユーザーリサーチの仕組みを整備しています。徐々に定量・定性データを集める基盤は整ってきており、興味深いインサイトも得られはじめてきました。春頃からは、それらをもとに改善点を議論しながら、開発プロセスの最適化を進めていく予定です。
ユーザーインタビューの一コマ
入社以来、僕は「人間にとって優れたストリーミング体験とは?」という問いを考え続けています。優れたストリーミング体験は、顧客を満足させ、楽しませるだけでなく、健やかにするものだと考えています。
先ほど述べたとおり、僕はテクノロジーと人間の関わりに興味があるのですが、今のストリーミングサービスが人々の生活を手放しにより良くしていけるかは、議論の余地もあると感じます。
とりわけ一気見(binge watching)のような文化は、週末ずっと画面の前に座っているわけですからね。デザイン思考を生かし、U-NEXT発の優れたストリーミング体験を提案できたら嬉しいです。
長い自己紹介を読んでいただきありがとうございました。きっと入社前の僕のように、U-NEXTが何をしている会社か、ピンと来ない人もいると思います。
これからU-NEXTのnoteでは、僕たちの事業や取り組み、社内のメンバー紹介など発信していく予定です。よかったらアカウントをフォローしてみてください。