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なぜU-NEXTが出版を?サブスクが生む著者と読者の新たな出会い

U-NEXTが書籍? なんて思われる方もいらっしゃるかも知れません。

先日、アプリ内で書籍サービスを統合した話も公開しましたが、U-NEXTは以前から映像と合わせて電子書籍も展開してきました。

そして、2020年8月からはもう一歩踏み込み「出版事業」もスタート。これまでは様々な出版社から出された書籍をU-NEXT上で展開していたのに対し、私たち自身も出版社の一つに加わり書籍を作るという挑戦を始めました。

決して数は多くないですが、じっくり一つひとつと向き合い制作しています。リリースされたものの中には、朗読劇が開催されるなど書籍を起点に次の展開につながっているものも出てきました。

本記事では、この出版事業が始まった経緯とともに、20年以上にわたり書籍業界で働いてきた事業責任者のマイケル・ステイリーの視点で、U-NEXTが書籍出版を手がける意味をお伝えしていきます。

マイケル・ステイリー
U-NEXTオリジナル書籍 パブリッシャー
1976年生まれ、44歳。コロラド大学ボルダー校および同大学大学院出身。2001年に講談社インターナショナルに入社。外国人向け日本語教材、日本文学の編集を担当。2013年に同社を退社後、角田光代さん、柳美里さんらの海外出版エージェントとして活動。2014年に、アマゾンジャパンに入社、Kindle Singlesの立ち上げを担う。2019年にU-NEXTに転職。現在、書籍・電子書籍の編集を担当。

作家にとって「新しい発信の場」を

——はじめに、出版事業が生まれた経緯を教えてください。

マイケル:「作家さんに新しい発信の場を作れないか」という思いがスタートでした。

私は20年にわたり、書籍——中でも文芸作品を中心に編集などを担当してきました。その中で強く危機感を感じていたのが、発表の場や機会が減り続けていることです。

日本の文芸作品は、文芸誌を主な発表の場として発展してきました。全盛期には商業誌、同人誌問わず多くの人が手に取り、新たな作家・作品との出会いを生み出してきました。

しかし、現在では文芸誌も発行部数は右肩下がり。雑誌の赤字を単行本でカバーする自転車操業がほとんどで、一つ、また一つと休刊・廃刊に追い込まれてきました。このままでは発表の場、ないしは新たな読者との出会いの場がなくなってしまう。これは文芸に携わる人であれば誰もが持つ危機感でしょう。

U-NEXTというプラットフォームであれば、それを代替するだけに止まらない大きな可能性を提示できるのではないかと思ったんです。

——どのような可能性が?

マイケル:大きく2つあります。1つはその数や読者層。U-NEXTには現在200万人を越える会員がいらっしゃいます。主要なユーザー層でいえば20−30代ですが、多様な年齢、多様な興味関心やバックグウランドの人が集まっている。そして、その大多数はこれまでは文芸に興味がない人。未知の読者層なんです。

もう1つは、ハードルの低さ。私たちは「読み放題」で書籍を提供します。読者は月会費という形ですでにお金を支払っているので読みはじめるまでのハードルは基本的に低い。都度お金を払うかの判断が不要なので、新たな書籍との出会いを生みやすい環境がある。これまで文芸に触れてこなかった人でも、試しに読んでくれる可能性があるんです。

いずれも、今までの媒体では提供できてなかったであろう「可能性」を作家さんに届けられると考えました。

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U-NEXTオリジナルの書籍コンテンツ。「読み放題」で提供されている

書籍を取り巻く、2つの大きな変化

——マイケルさんは20年にわたり書籍にまつわるお仕事をされています。先ほど「発行部数が右肩下がり」という話もありましたが、書籍を取り巻く環境はこの20年でどう変わったと思われますか?

マイケル:あくまで私が見てきた範囲も一部だと思いますが、それでも本当に多様な変化があったと思います。特に大きかったと感じるのは電子書籍の普及です。

売上だけで言えば、まだまだ紙の方が大きな割合を占めていますが、紙の本は減少傾向なのに比べ、電子書籍は基本的に増加傾向にある。

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また、電子が紙に取って代わる動きもありますが、電子書籍ならではの動きもあります。例えば、セルフパブリッシングが容易で、SNSなどの普及によって著者自身が発信力を持ったことで出版社を介さず本を作ることも可能になりました。もちろん、出版社の権威性や営業力はまだまだ健在なので、実績のある作家さんは出版社を介すケースが多いですが、選択肢が増えた感覚です。

他にも、電子書籍の場合「読み放題」のように課金方法も多様になり、本との出会い方も変わった印象があります。

——確かに、読み放題のような形は電子書籍ならではですね。

マイケル:あとは、本に限らず「可処分時間の奪い合い」が激化していることも重要な変化です。

スマートフォンの普及やSNS、ゲーム、各種コンテンツサービスの台頭もあり、一昔前であれば「本を読む時間」だったものが、別のものにどんどん取って代わられるようになった。

電子書籍のように「本の中」での変化もありましたが、本を含めた社会全体の変化も無視できないくらい大きい。出せば読まれる時代ではないからこそ、本の作り方や一つひとつにかける熱量もこれまでと同じではいけないと感じています。

サブスクリプションが生み出す出会い

——出版にあたり「U-NEXTから出しませんか?」と作家さんにお話しすると、どのような反応がありましたか?

マイケル:ドラマ化や映画化など、映像化への期待の声をいただくことは多いですね。特に私が関係性のある作家さんは、小説を出すことだけではなく、“その後”の展開も大事だと考えられている方が多いです。

書籍にはじまり、映像や舞台、漫画、翻訳出版など多様な展開ができればコンテンツの価値を最大化できる。作品の知名度も上がりますし、読者も増えますし、作家さんにとってもメリットが大きいですから。“その後”の展開を想定し作品を作られる方も少なくありません。

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左:#ある朝殺人犯になっていた(藤井 清美)
右:路地裏のウォンビン(小野 美由紀)

——作家さんから、U-NEXTの出版事業に対し評価いただいている点はありますか?

マイケル:少なくとも2点あります。1つは、発表する媒体がサブスクリプションサービスであること。もう1つは、電子書籍でありながら紙の本も作れることです。

前者は、先ほどもお話したとおり、200万人の会員にリーチでき、かつ読み放題で楽しんでいただけるという点です。従来の「〇〇円」と値札の付いた書籍だと「金額に見合うのか」「この作家さんは知らないけど、面白いのだろうか」と読み始めるハードルがありますが、読み放題ならそれも低くなる。サブスクリプションは、新たな読者層の獲得に効果的なんです。

後者は、デジタルサービスのU-NEXTとしては正直かなり挑戦的な取り組みでした。著者さんにとっては紙は紙の価値があり、紙で愛読してくれている読者もいる。作家さんにとっては魅力的だろうと思っていたので、作家さんからの反響も良く胸をなで下ろしています。

直近でリリースされたものでも、小野美由紀さんの青春群像劇『路地裏のウォンビン』は電子書籍と紙の双方を展開しています。U-NEXTのサービス上では先に読み放題でお届けし、紙のものが1カ月ほど遅れて店頭に並ぶ予定です。

目指すは、U-NEXTならではの出版社像

——まだまだ走り始めの事業だと思いますが、今後やっていきたいことや目指している姿があれば教えてください。

マイケル:まずは、U-NEXTのユーザー層に合わせ、多様な作品を展開していきたいと考えています。これまではSFやファンタジーといったエンターテイメント性のある作品に加え、文芸寄りの作品にも力を入れてきました。直近ではノンフィクション作品の展開も予定していたり、私以外にも編集を担うメンバーも入ってくれたりしたので、それぞれの個性を活かしつつ、もっと多様なラインナップを揃えていきたいです。

また、翻訳出版も取り組んで行きたい分野の一つです。現状、翻訳出版の分野では文芸が多いですが、それ以外の分野ではまだまだ翻訳作品は市場にも多くありません。私自身翻訳出版を手がけてきたこともあり、ここは期待値を持っている分野の一つです。

それと並行し、様々な展開事例を増やしていきたいです。朗読劇もその一端ですが、映像化はもちろん、漫画化やオーディオブックなども可能性としてはあると感じています。せっかく作家さんが書いてくださった作品ですから、可能な限りその価値を最大化し、知っていただく機会を作りたいと考えています。

——ラインナップの多様化と、成功事例作りを両輪ですすめていくイメージですね。

マイケル:目指す姿でいうと、「U-NEXTならではの出版社像」は見つけていきたいと思っています。明確なイメージがあるわけではないですが、私たちは、他の出版社さんと競い合うような存在ではないと考えています。そもそも電子書籍ストアとしてのU-NEXTは多くの出版社さんのお力をお借りして成り立っているものでもあります。

だからこそ、私たちには何かを取って代わる存在になったり、ポジションを競い合うのではなく、“私たちなりのありかた”を模索しなければいけない。今できることは、決して数は多くないからこそ一つひとつと丁寧に向き合い、時間を掛けてでも素晴らしい作品をつくること。その積み重ねの先で「U-NEXTならでは」を見つけていければと考えています。

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