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「作ってみた」の先を用意したい。つんく♂が『TOKYO青春映画祭’22』でクリエイターに届けたいチャンス

「100点満点じゃなくても、来い来いっていう感じ」

数々のアイドルやアーティストを世に送り出してきたエンタメプロデューサー・つんく♂さんは、自身が総監修を務める『TOKYO青春映画祭』についてこう語ります。

2021年に始まり、今年は6月4日、5日に開催される『TOKYO青春映画祭』では、プロ・アマ問わず「青春」をテーマに募集した映像作品のうち、審査を通過した作品が上映されます。U-NEXTは昨年から映画祭との連携を開始。今年も配信などの面で連携を予定しています。

つんく♂さんにとって「夢とエネルギー溢れる才能との出会い」の場でもあるという本映画祭。今回は、その開催のきっかけや「才能が芽吹く瞬間」への期待、目指したいエンタメの形などを伺いました。

作ってみた後の「認められたい」気持ちに応えたい

——はじめに、『TOKYO青春映画祭』について教えてください。つんく♂さんのオンラインサロンの映画制作プロジェクトから生まれた企画とのことですが、作品を制作するだけでなく、上映する場を作ろうと考えたのはなぜだったのでしょうか?

クオリティを問わなければ、「映画を作る」までは、誰でもできるじゃないですか。

お父さんが娘の成長記録を集めたものも、高校の映画部が1年費やして作ったものも、本人が「これが映画」と言ってしまえば、映画になる。最近なら作ってから共有するところまで、YouTubeやInstagramでやれてしまいますよね。

ただ、その分“認められる”ことが難しくなっている。音楽で言えば、昔ならメジャーデビューや、カラオケ屋さんに曲が入ってるとかが基準としてあったわけだけど。今はその線引きがあいまいになっています。

もちろんSNSで注目されるということもあると思いますが、公に認められたい、評価されたい気持ちって、みんな持ってるんじゃないかなって思うんです。映画でも、音楽でも。

だから、そういう「公に認められる」枠組みを作っちゃおうと思ったんです。業界の偉い人に審査やってもらったり評価をしてもらえたりすれば、それができるんじゃないかって。

実際、昨年は大々的に宣伝したわけでもないけど、思ったよりも作品が集まって。「作ってみた」の一歩先を求めている人がいっぱいいるんだと実感しました。

そういう意味で、ネーミングに込めた「青春」も良かったんでしょうね。

——「青春」という言葉は、つんく♂さんの手がけた楽曲にも頻繁に登場しますよね。この言葉を今回の映画祭の名前に冠した背景は?

大きいのは、作品自体が百点満点じゃなくてもいいよっていう気持ちです。

出てる子たちの演技が少々未熟とか、見てくれが普通とか、脚本家や監督が画面の中に少し見切れて映ってるとか…。そんなんええやん、来い来いみたいな(笑)。

最初は「原宿青春映画祭」というネーミング等も考えてたんですけど、別に原宿にいるような子だけが対象でもないし、作品が「青い」「未熟」なものがいいとかってわけでもない。かつ、長い目で見たときには、「東京」っていう方が世界にも出やすいと考えて、「TOKYO青春映画祭」になりました。

才能を育てるのは、いつだって面倒くさい。けど楽しい

公式サイトでは「夢とエネルギー溢れる才能との出会い」を期待していると語られていました。今回の映画祭やオンラインサロン含め、つんく♂さんは一貫してクリエイターの発掘や育成に取り組まれていますよね。そこにはどういったモチベーションがあるのでしょう?

僕自身も新しいことを吸収できるし、つんく♂サロンメンバーからクリエイターが育ってくれたら、日本のエンタメ界にとってもプラスになる。何より、才能の芽吹く瞬間に出会えるのが一番幸せだなって思うんです。それはモーニング娘。が羽ばたいていったのと、何となく同じ感じ。

もちろん大変で面倒くさいですけどね。でも、凄く楽しいから。

——どういった大変さを感じますか?

そうですね……。例えば、オンラインサロンで制作した映画では、主題歌もメンバーさんを中心に作ってるんですが、あえて正直に言えば、僕一人なら30分で終わることを、何日もかけてやってるんです。僕もヒント出したり添削したり、直してもらって、それをまたつんく♂サロンメンバーに感想聞いて、また修正して……って。

というのも、つんく♂サロンのメンバーさんには社会人も学生も主婦もいて、音楽畑で働いてきたら知ってる“てにをは”のようなものも知らず、それぞれのルールでやっている。白帯ばっかりが集まって柔道してる感じですよ。だから危なっかしくて、怪我するよってつい言いたくなる。

でも、何事もざわざわしたところから、洗練されていくものですから。僕もアマチュアバンドのとき、生演奏できない公園で勝手に発電機使ってアンプ使って音を鳴らしてバンドで演奏して、いつの間にか公認になった(半ば強引に。笑)。YouTubeだって、最初は何でもOKだったカオスな状態があって、徐々にルールが生まれて整っていった。

だから、いずれは洗練されていくだろうと思いながら、ざわざわを楽しんでるような感じですね。じれったくなる瞬間もあるけど、それも楽しみながら。「やったらええがな、怪我すんなよ」って見守る気持ちです。

その過程では、さっき言ったように、僕自身もたくさん刺激をもらうんですよ。自分にとっては当たり前の“てにをは”や型を知らないからこそ「そうか、こういうところが難しいんやな」「そういうやり方するのか」って気づけたりしますから。

「音楽やってました」では終わらへん。動画の未来に寄せる期待

——今のお話も踏まえると、つんく♂さんが「音楽祭」ではなく「映画祭」を企画した理由が気になります。つんく♂さんにとっては音楽の方が身近だと思いますが、なぜ「映画」だったのでしょう。

コロナ禍で映画の可能性を感じたのが大きいですね。今は「何月何日に公演をやろう」と思っても、演者や関係者、出演者が集まることによるリスクがかなり大きい。

一方、映画であれば、人数をうまく絞ったり適切に管理して制作すれば、広く届けられる作品をリスクを抑えた上で作れる。予算もピンキリだし、今はスマホのカメラ一つでも凄い作品を生み出せるかもしれない。改めて、その可能性を認識した感じですね。

あと、やっぱり映画に限らず、動画の世界に首を突っ込んどかないとという感覚値もあります。動画の世界が今後どうなるのか。ヴァーチャルリアリティとか3Dといった技術がどうなるのかは、5年後、10年後でさえ想像できないじゃないですか。

この前、家族とロサンゼルスのディズニーランドに行って、3Dグラスをつけて遊ぶアトラクションがあったんですよ。それ自体は昔からあるものだけど、やっぱ体感すると、小学生の子どもでも、50歳過ぎた僕でも、ドキドキするし、盛り上がる(笑)。一般の人が日常的にゴーグルを装着して……とかは少し先かもしれないけど、やっぱり「わからん」ではダメだなと思ってるんです。

——コンテンツを支える技術にも関心を持たれているんですね。

やっぱり技術とエンタメが手を組んでいかなダメだと思いますね。

サブスクだって、どれだけ技術が優れていても、クオリティの高いコンテンツがないと、使う人は喜ばない。逆に、僕らのようなコンテンツを作る人がいいものを作っても、発表の場がないと届けようがないわけで。うまく両方を繋いでいくことも、僕の仕事として、やれたらいいのかなとは思いますね。

関わる人全員が誇れる作品を。作りたいTOKYO青春映画祭ワールド

——最後に今年度の映画祭への想いを聞きたいです。去年と比べ、パワーアップした点などはありますか?

具体的に出品数が増えたとかはあるけど、やっぱ心持ちが一番違いますね。

実は、去年は「映画祭だから、映画畑に認められないと」みたいな欲もあったんです。けど、違うなと。僕がやる映画祭だから、祭りのテーマは僕が決めるべきだなって。

校風と同じで「祭風」っていうのかな。「こんなの映画じゃない」って言われてもいいから「TOKYO青春映画祭っぽい」作品をもっと見つけていきたいと思ってるんです。

一時期、岩井俊二監督の作品が「岩井ワールド」って言われてたみたいに。「TOKYO青春映画祭ワールド」ができて、一般的な映画賞には引っかからないけど、ファンがついてるみたいな作品が集まる場にしていきたいですね。

——今の時点で、「TOKYO青春映画祭らしいもの」とはどんな作品だとお考えですか?

関わるみんなが自信を持てる映画でしょうね。

例えば、監督や脚本家は誉められるかもしれないけど、出演する女の子はあんまり得しないようなものってあると思うんです。公開から20年、30年経ったとき「この作品は見せたくない」と演者が思うような作品はダメ。他の映画祭では「映画的」に評価されるかもしれないけど、TOKYO青春映画祭では違う。

単に際どかったりダークだったりするのも違うし、演者がただ魅力的に映ってるだけでも、意味がない。映画祭に向けてつんく♂サロン内でも映画制作が進んでるんですが、脚本を提出してもらう段階で「そぐわないから直して」と伝えたケースもあります。言われて直せる人だけ受け入れる。強制はしたくないから。嫌だったら別の機会を探したほうがいいと思ってます。

やり方はいくらでもあると思うんですよ。撮影や演出の仕方、脚本……そういうもの含め、TOKYO青春映画祭らしさを僕自身考えていきたいです。

——最後に、映画祭にかける意気込みを教えてください。

タレントなのか脚本家なのか監督なのかわからないけど、「こいつはスターだ」って人が出てほしいですね。

あとは来年、再来年と、取り組みが繋がってほしい。今はまだまだ開催資金も持ち出しばかりなので、商業的にも成り立つように……。

とはいえ、映画は応援してくれる人が命ですから。まずはたくさんの方に来ていただけたら嬉しいですね。コロナがどうなっていくかは見えないけれど、無事に開催できることを願っています。

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