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CJM、リサーチ、スプリントを駆使して、動画配信サービスが電子書籍を統合し、改善を重ねている話

こんにちは、U-NEXTカスタマーリサーチャーの毛利健人と申します。ステイホーム期間を通じてマンガの面白さに目覚め、最近は古谷実先生の作品にはまっています!

さて、U-NEXTのiOSアプリは今年3月にUIの設計を大きく変更し、新たに「ブック」タブを独立。電子書籍サービスのユーザビリティを向上させました。結果、直近の数字をみると、今までより多くの方々にご利用いただけるようになりました。

本記事ではこの変更に至る経緯を振り返り、カスタマーリサーチを元にサービスの大規模改善につなげるプロセスをお伝えします。

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U-NEXT電子書籍サービスの歴史

そもそも、「U-NEXTが電子書籍?」と思った方もいるかもしれません。

そうU-NEXT、実は動画配信だけではなく電子書籍サービスもあるのです。その歴史は案外古く、東芝から電子書籍事業を承継するかたちで2015年から展開しています。

しかし、他社事業を顧客ごと引き継いだという経緯から統合には大変苦労があり、しばらくはサービス名もUIもまったく異なるままサービスを運用する状態が続きました。

これらを統合し、1つのアプリ内に2つのサービスを取り込めたのは2019年のこと。統合前は電子書籍サービスの認知度は皆無に等しい状況でしたが、統合が功を奏し、電子書籍サービスの利用者数を大きく伸ばすことになりました。

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統合時のニュースリリースアイキャッチ画像

UI変更の背景にあった課題感

統合当時のU-NEXTはカスタマーエクスペリエンス全体を俯瞰した改善施策の優先順位付けができていない状況でした。かつ、その上に電子書籍サービスが統合されてしまったため、状況は悪化。プロダクトオーナーも問題認識はあれど手を付けられない状態に陥っていました。

そこに取り組んだのが、私の所属する顧客調査を中心に行うカスタマーインサイトチームです。私たちのチームもサービス統合と同じく2019年に発足しました。そのメンバーが主体となっておこなったのが、カスタマーエクスペリエンスの分析です。

NPS調査で寄せられた顧客の声を軸に、過去の定性調査・定量調査結果を肉付けしたカスタマージャーニーマップ(CJM)を作成。カスタマーが抱くペインポイントを可視化した上で、「ビジネス上の重要性」「現状の重症度」「技術的な実現可能性」の3点から解決優先順位を導くことに注力しました。

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社内で作成したカスタマージャーニーマップ

ここで特に優先度が高い課題のひとつに挙がったのが「情報の構造化」ができていないという点です。


U-NEXTがカバーする多彩なジャンル、新作から旧作までのラインナップ、見放題・読み放題コンテンツとポイントコンテンツ、といった多様な情報が構造化・整理できておらず、うまくカスタマーに利用・理解されていなかったのです。

特に深刻だったのが今回の電子書籍サービスでした。電子書籍を「1つのジャンル」として動画と一緒にジャンルの一つとして扱っており、U-NEXTが目指す「オールインワン・エンターテイメントサービス」という状態もうまく表現できていませんでした。結果、電子書籍の認知やユーザビリティにも大きな課題が生じていたのです。

これを解決すべく社内で議論して導いたのが、「ブック」タブ独立という方針でした。

デザインスプリントで目指す姿を描き出す

「ブック」タブ独立という大まかな方針を決めた後、社内の関係者を集めてリモートデザインスプリントを実施しました(リモートデザインスプリントについては、以前、以下の記事でもご紹介しました)。

今回のデザインスプリントに先立ち、私たちのチームはカスタマーリサーチャーの亀山明佳を中心に既存電子書籍サービス利用者のデプス調査を徹底的に実施。課金額と嗜好性を軸にしプロットした顧客像を解像度高く社内に共有するとともに、ビジネスチームからも市場環境調査結果の共有を依頼しました。

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既存電子書籍サービス利用者のデプス調査結果資料の一部

一方、動画配信サービスと電子書籍サービスを1つのアプリ内で実現している例はほかにほとんどなく、現状課題の解決だけではU-NEXTの目指す「オールインワン・サービス」の独自性を生み出せません。

そのため、共有フェーズでは顧客像や現状の課題は伝えるものの、課題解決の具体案まで踏み込まないこと、議論フェーズではアイデアが発散しないよう話し合うサービスの枠組みをある程度限定。新しいサービスの輪郭がきちんと見いだせるよう腐心しました。

結果、デザインスプリントを通じてU-NEXTが目指す電子書籍サービスの姿を参加者間で導き出すことができました。

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電子書籍サービスをテーマにしたデザインスプリントで利用したボード

しかし、ここで導き出された姿は権利元交渉を必要とするなど、乗り越えるべきハードルが非常に多いものでした。そのためプロダクトオーナーを中心にフェーズの切り分けを実施。段階的に電子書籍サービスのアップデートを図っていくことになりました。

その第一弾が今回の「ブック」タブの独立です。第一弾アップデートにあたり最適なデザインや情報レイヤーを作成するため、デザイナーチームや電子書籍調達チームにも尽力していただきました。

「ブック」タブ以降、U-NEXTが見据えている変化

「ブック」タブ独立の結果は、すぐにカスタマーインサイトチームによる定性的なユーザーテストと、データサイエンスチームによる定量的な行動ログ分析によって効果を検証。電子書籍サービスの認知向上や利用促進に一定の効果が認められ、特にユーザー電子書籍利用率はUI改善前の1.2倍になりました。

同時に、まだアップデート第一弾ということもあり、多くの課題が現状のアプリにあることもユーザーテストを通じて明らかになりました。しかしこれらの課題の多くは、昨年に作り上げた「U-NEXTが目指す電子書籍サービスの姿」で多くを解消できる見込みのもの。改めてデザインスプリントの結果が誤っていないことを証明することにもなりました。今後も電子書籍サービスは段階的なアップデートを進めていく予定です。

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先日の戦略発表会で示した音楽サービスのイメージ

また、U-NEXTは先日の戦略説明会でお伝えしたように、音楽領域も強化していく方針です。これはオールインワン・アプリとしてU-NEXTの独自性を大幅に強化できる一方、サービスの複雑性が増す懸念もあります。動画・書籍・音楽をまたぐシームレスなカスタマーエクスペリエンスの追及は、今後私たちの大きなテーマのひとつになるでしょう。

そうした変化の中でも、U-NEXTは常にカスタマーの声と向き合い、共有・議論を重ねながら進め、「ひとりひとりに、最高の時間を配信する」ために必要な変化を今後も進めていきます。

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