『はな恋』企画・孫家邦さんと考える、「映画と映画館と配信」の理想的な関係
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『はな恋』企画・孫家邦さんと考える、「映画と映画館と配信」の理想的な関係

私たちU-NEXTは、長年「いかに配信事業者として映画文化・産業をともに盛り上げていけるか」を考え続けてきました。

例えば「映画館との連携」。現時点では5つのシネコンと協業し、サービス内で使える「U-NEXTポイント」で映画チケットを購入可能に。コロナ前の2019年には、年間40万人を映画館に送客してきました。アフターコロナではさらに多くの映画館と連携し、動画サービスであるU-NEXTのポイントで、もっと多くの方に映画館で映画を観ていただきたいと考えています。

コロナ禍で興業を取り巻く状況が変わると、オンラインを主戦場とする私たちの担える役割も変化しました。

映画会社からの要望を受け2020年4月からスタートした「オンライン公開」では、映画館が大打撃を受ける中、劇場公開から間もなく配信を開始。公開直後、という理由から、劇場料金と金額的に差を付けず、なるべく映画会社へ売上をお戻しできるよう工夫し、これまで142作品(※2021年9月時点)を届けてきました。

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また「映画祭との連携」も、2020年の東京国際映画祭から開始。これまで計21の映画祭(2021年9月時点)で上映される作品を配信で全国にお届けしてきました。

こうした、「映画文化と向き合う姿勢」も評価いただいた結果、U-NEXTは2021年7月14日より、2021年上半期の話題作『花束みたいな恋をした(以下、はな恋)』の独占配信を開始しました。

本作は、コロナ禍で映画業界全体が厳しい2021年1月に公開。にもかかわらず、人気は右肩上がりで、全国映画動員ランキングで6週連続1位、15週連続トップ10にランクイン。配給元である東京テアトルの歴代興行収入記録を塗り替え、興行収入38億円を突破したヒット作です。

この独占配信に際して開催したメディア向け勉強会には、同作の企画を務めたリトルモアの孫家邦さんにご登壇を依頼。U-NEXT映画部部長の林健太郎とともに対談を行いました。

本記事では当日の会見・対談の内容を再編集し、はな恋成功の裏側から、孫さんがU-NEXTでの配信を決められた理由、両者が考える「インディペンデント映画の今後」と「映画と映画館と配信の関係」についてお話します。

はな恋の興行的成功を支えた三つの要素

会見当日、真っ先に話題に上がったのは、はな恋の成功について。

先述の通り興行としても成果を残しており、このコロナ禍での成功は誰もが興味をもつテーマでした。実は会見後、U-NEXT上でもはな恋は歴史に残る大ヒットを記録。レンタル作品の歴代初週視聴ランキングの1位を更新するなど、私たちもその注目度に驚かされました。

孫さんは「だれも、正確な理由なんてわからない」「後付けでの分析は簡単ですよ」と笑いつつも、その理由として、三つの可能性を上げてくれました。

一つ目は、タイミング。本作品が公開された2021年1月頃は、コロナの影響が大きく、ビッグタイトルは公開を延期していた時期でもありました。ともすれば苦しい時期ですが、このタイミングに公開した“英断”を「多くの方が認めてくれたのではないか」と孫さんは言います。

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リトルモア 代表取締役社長 孫家邦さん

二つ目は、宣伝プロデューサーの力。孫さんは、ヨアケ・中野朝子さんの名をあげました。

中野さんは女性目線で「この映画をこう売るんだ」と明確な方針を策定。すべての裁量と責任をもって決めていったといいます。

例えば、予告編。はな恋は52パターンもの予告編が用意されました。見せすぎでは?とも言えるほどの情報が予告として出ても、中野さんは「いくら見せても、この映画の売りは減らない」と自信を持っていたそう。「まさにその通りでしたね」と孫さんは振り返ります。

三つ目は、「あくまでよく言われることとして」と前置きをしつつ脚本をあげます。脚本を担当された坂元裕二さんを「素晴らしい脚本家」と評しつつ、それも「紋切り型ではない」ことを強調しました。

「僕は、日本映画の良さは多様性にあると感じています。いろいろな楽しみ方ができ、いろいろな人に刺さる部分がある。これは脚本もしかり。一般的な『うまい脚本の書き方』にとどまらない多様さがある。その中の前衛的な側面が、うまく伝わったのではないかと思います」

この多様性に関して、U-NEXT林も「映画を語る上で重要な要素」と付け加えました。

「U-NEXTはビデオレンタル店の最終進化形を目指すと標榜しています。ただ、そこにたどり着くには本当に多くの映画を揃えなければいけません。よく『A級からZ級まで』と言ったりしますが、世の中には本当に多種多様な映画があって、それぞれに面白さがある。孫さんのお話は、まさにその多様さの重要性について述べられていると感じました」

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U-NEXT 映画部部長 林健太郎

映画文化の中で、矜持を持ちものづくりを

こうした映画の多様性、豊かさを表現するうえで欠かせないのが、インディペンデントで映画を製作する方々の存在。リトルモアを率いる孫さんもその一人です。

ただ昨今のインディペンデントを取り巻く状況に林は危機感を持っているといいます。

「業界全体として、小さい映画にお金が回らない状況が進んでいると聞きます。実際売上を見ても、稼ぐ映画はすごく稼いで、稼がない映画はますます稼げなくなってきている。格差が拡大し、一本一本を大切に作るインディペンデントは苦しい状況にあるのではないでしょうか」

孫さんもこの言葉に首を縦に振ります。

一方、この状況下でありながらはな恋はリトルモア製作、東京テアトル配給という、言うなれば「インディペンデント連合」による成功作。その立役者のひとりでもある孫さんは、映画を作る上で何を重視しているのか。そう問いかけると、孫さんは少し考えた上で、「手段を選ぶこと」と端的に答えます。

「僕らは、手段を選んで勝たなければいけないと思うんです。今回の東京テアトルとの共同配給も、U-NEXTでの独占配信も手段を選んだ結果です」

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孫さんがこう答える背景には、商業的成功とものづくりのバランス感覚があります。

林の言葉にもあった「稼ぐ映画が稼ぐ」状況になると、皆「稼ぐ側」になんとか入るべく、どうしても商業的成功に対する意識が高まっていく。もちろん、孫さん自身も商業的成功は大事だと考え、「もちろん、僕も当てたい。稼がなきゃいけないですし、社員を食べさせなきゃいけないですから」とも語ります。

ただ、孫さんはそのバランスをとても重視されている。「稼ぐこと」よりも、「映画のため」という意識の方が先にあると丁寧に説明してくれました。

「自分たちは、映画文化のもと、矜持を持って“ものをつくる”と決めているんです。商業的な成功を目指すにしても、文化に寄与するような映画を作って、当てないといけない。一番“偉い”のは、映画なんですよ。僕よりも、俳優さんよりも、監督、スポンサー、製作委員会の人々…誰よりも映画が偉い。僕たちは映画のために働いている。その原則を守ってやることを僕は一番大切にしています」

映画館と配信会社、映画館と映画の関係性

“手段を選ぶ”アプローチの一つとして、林はU-NEXTが現在取り組もうとしている「製作委員会への出資」があると言及します。その背景には、映画文化に配信会社としてどれだけ寄与できるかという意志があります。

「孫さんもそうですが、我々としてはより製作における川上の皆様とのつながりを強めていきたい。製作はもちろん、スタッフィングや脚本なども一緒に動いていければと考えています。また、U-NEXTは公開後のレンタル配信という形だけでなく、劇場でのプロモーションなど公開時から後押しできる手段も数多く持っています。単なるウインドウのひとつではなく、製作・配給の皆さんと一緒に、映画を盛り上げていきたいと考えています」

林の言葉に、孫さんもこう続けます。

「僕らは一緒に"映画が一番偉い”と言ってくれる仲間が必要なんです。その意味で、林さんのような映画愛のある人と一緒に作るのはあるべき姿と思っています」

他方で、配信会社が製作に入ると、「映画館との関係性」を懸念されるかたもいらっしゃいます。この点は、孫さん、林とも「映画館との共存」こそが重要だと強調します。

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「配信サービスの人間が言うのもあれですが、僕自身いち映画好きとして、映画はまず映画館で観るものだと思っています。ゆえに、『映画館と一緒に何ができるか』は前提条件として捉えています。U-NEXTは映画ファン、製作陣、興行会社、配給会社とともに日本の映画文化、産業を支えていきたい。映画興行と配信は、競合関係ではなく共存関係になれると信じています」

林の言葉に、孫さんも「映画館との共存は一番大事ですね」とうなずきます。では、どのように共存するか——そのヒントに、孫さんは自身の視聴体験をあげました。

「配信も映画も結局は“再生”してるだけなんですよね。ただそれぞれ異なる魅力がある。経済的には、家で観るほうが楽だよねという人もいます。他方で、「大きい画面の方がいいよね」という作品ももちろんある。

例えば先日、森田芳光監督の『それから』を見直しました。あの作品では、藤谷美和子がラムネを飲むシーンがあるのですが、飲む瞬間、瓶から"フッ”と密やかな息の音が聞こえるんです。その音が、本当に素晴らしい。僕は家で観たんですが、これは映画館の静まりかえった空間で聞きたいと強く思いました」

ここで、ある記者の方がアルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA/ローマ』について問いかけます。同作はNetflixが配給権を獲得し、ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を、アカデミー賞で外国語映画賞・監督賞・撮影賞を受賞した作品。配信会社の作品が映画賞を総なめしたことで、「映画と映画館の関係」に対し様々な議論があった作品でもありますが、両者はこれをどう捉えているかと問いかけました。

孫さんは、作り手の目線で以下のように答えます。

「『ROMA/ローマ』の監督さんに聞いてみて欲しいです。『この作品は、テレビ画面でみて一番よく観えるよう設計しましたか?』と。僕は違うと思います。これは、映画館で観るために作られた作品だと思いますよ。それが答えじゃないでしょうか」

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一方林は、体験を軸に言葉を続けます。

「僕は『映画館が映画を映画たらしめている』と考えます。孫さんの言葉にもあるように、その場所や空間で体験することが前提になっている。だからこそ、映画館と配信は役割が異ってしかるべきなんですね」

映画と配信は別物という両者の意見を踏まえ、孫さんは改めて冒頭の話に言及し、このお話を締めくくります。

「先ほどお伝えしように、映画の魅力は多様性にある。みんな、それぞれの分野で面白がればいいんです。ピンからキリまであるからこそ楽しめるはず。文化をつなぐためにもそれが理想だと思うんです」

コロナ禍、そしてエンターテイメント業界における競争が激化する中、「映画」を取り巻く状況は決して簡単なものではありません。ただ、孫さんの語るように「多様性という映画の魅力」は間違いなく存在する。

それを残していくためにも、林の言葉にもあるように「映画ファン、製作陣、興行会社、配給会社とともに日本の映画文化、産業を支える」動きが重要になるのではないか。そう信じ、U-NEXTは引き続き様々な側面で映画と向き合っていきます。

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株式会社U-NEXTのコーポレートnoteです。 https://www.unext.co.jp/