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51人の“映画愛と人生”が垣間見える『人生と映画展』の舞台裏

2021年3月、U-NEXTは都営大江戸線六本木駅構内にて、51人のポートレート写真と“愛する映画作品名”をギャラリーのように展示した「地下鉄フォトギャラリー『人生と映画展』」を展開しました。また、本展示を用いた映像作品も4月からシネアドとして映画館各社で上映されています。

U-NEXTについては特に触れず、著名人でもなく“一般の人”の写真を撮り、映画作品名とともに掲示した今回のフォトギャラリー。その題の通り、「人生と映画」を伝えるこの発想はどのように生まれたのか。その問いを、今回のプロジェクトでアートディレクターを務めた窪田新さん、フォトグラファーを務めた正田真弘さん、そしてシネアドの映像制作を担当した映像ディレクターのきたむらゆうじさんに伺い、制作の舞台裏を振り返っていただきました。

窪田新
1981年山梨県生まれ。2006年多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。アートディレクターとして、広告、パッケージデザイン、V.I.、エディトリアルデザインなどを手掛ている。NY ADC金賞、D&ADイエローペンシル、CANNES LIONS金賞受賞。5月11日よりクリエンションギャラリーG8(銀座)にて「JAGDA新人賞展2021」を開催中。

正田真弘
1977年生まれ。東京造形大学デザイン科卒業後、石田東氏のアシスタントを経て、渡米。2008年、『IPA(International Photography Award)』のセルフポートレイト部門で金賞受賞。翌年帰国した以降は、グラフィック広告、テレビコマーシャル、雑誌連載等、幅広いジャンルの作品を数多く手がける。『TAPA(Tokyo Advertising Photographers Award)2015』受賞。日本広告写真家協会『APAアワード2017』経済産業大臣賞受賞。2016年に作品集『DELICACY』を上梓。

きたむらゆうじ
1984年生まれ。長野県岡谷市出身。山と湖、豊かな自然に囲まれて育つ。TVCM、WEB、MV、展覧会など多岐にわたり活動。様々な企業や、行政のプロモーションに関わる映像を制作。一枚絵を美しくグラフィカルに切り取る表現を好む。自身での撮影、編集も行う。漂う空気、音、間合いを大切に、優しく力強く描く。自分なりの価値観をもって、被写体と真摯に向き合う。

「人生で一番大切な映画」がすべてあるのでは?

——はじめに、今回のプロジェクトが立ち上がった経緯を教えてください。

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アートディレクター・窪田新さん

窪田:今回の『人生と映画展』は昨年から続く施策の一つです。2020年末のTVCMから始まり、新宿で展開した「人生にムダな時間を」と書かれた巨大広告などを経て、六本木は4作目。今回はユーザーを主役に、U-NEXTが大切に想っている「映画を好きな人」を描いています。

——今回の企画はどのように生まれたのでしょうか?

窪田:発想の原点は、「U-NEXTには年に数回しか観られないようなマニアックな映画もある」というお話を伺ったことからでした。それを聞いて「U-NEXTなら、どんな人の好きな映画でも置いてあるんじゃないか」と思ったんです。

そこで試しに…と、映画のタイトルとポートレートを並べたグラフィックを作ってみたんです。すると、映画のタイトルが「その人の人生のキャッチコピー」みたいに見えた。映画が、その人の人生観を想起させるなと。

これは企画になると思い「好きな映画のタイトルと、その人が生活をしている様子のポートレートを組み合わせたグラフィックをつくる」という提案をしたんです。

このアイデアを僕やCD(クリエイティブ・ディレクター)を含めたチームで練り、企画が固まった段階で、スチール撮影を正田さんに。撮影後、制作がほぼまとまった段階で、映像をきたむらさんに相談させてもらいました。

随所から感じられた、映画愛

——お三方とも、依頼を受けた当初はU−NEXTをご存じでしたか?

窪田:恥ずかしながら、「何の印象もなかった」というのが正直なところですね。テレビのリモコンにロゴがあるのは知っていたくらいでした。

正田:僕もアイコンは見たことがあるくらいでしたね。ただ会員になったことはなく、映像ストリーミングサービスなんだろうという認識くらいでした。

きたむら:ダメ押しで申し訳ないんですが、僕もあまりイメージがなかったです。もちろん存在は知っていて、「映画とかを配信している会社なんだろう」とは思っていたんですが、それくらいですね。

——打診を受けた後、U-NEXTについて調べたり話を聞いたりしたと思います。その中で印象は変わりましたか?

窪田:僕は最初、「U-NEXTはどういう会社か」「なにをしたいと思っているか」といった会社の説明を受けて、印象がガラッと変わりました。特に印象的だったのが、「ビデオレンタル店の最終進化系を目指している」という言葉です。

そのためにはラインナップが膨大に必要だし、年に数回しか見られないような映画も積極的に並べていきたいと。商業的に成功をおさめたタイトルだけではなく、一つ一つの作品に向き合う姿勢を感じたんです。

それまで、動画配信サービスは効率を追い求めるものだと思っていました。人気・不人気が数値で見えるので、それに最適化し、よく見られるものはフィーチャーされ、人気のないものは排除されていく。そういうものだと思っていたんです。

でも、U-NEXTはそれをしない。僕自身、昔は年間100本近くDVDとかを見て、作品をメモして貯めるくらいには映画が好きだったこともあり、シンプルにいいなと思いました。

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フォトグラファー・正田真弘さん

正田:僕は、実際使ってみてから印象が変わりましたね。ほかの配信サービスでは見つけられなかった映画が本当にたくさん出てくる。かゆいところに手が届くというか、見たかったものがあるんです。

また、検索していくと本当にレンタルビデオ店にいるような感覚を覚えました。たとえば、好きな俳優を調べてみたら面白い共演俳優に出会ったり、関連するマニアックな映画にも出会えたりする。そういった体験もあって、これは広く知ってもらいたいと思い参加しました。

きたむら:僕も説明いただく中で、映画と向き合う姿勢には驚かされました。振り返ると、たしかに昔好きだった作品を調べても出会えないなと感じていましたし、レンタルビデオ店のような楽しみ方は最近できてないという実感もありました。

また、CM『映画集め』篇を拝見したときに、ビデオテープのラベルに本当にマニアックな作品が入っているのにも気づいて。本当に映画愛がある人たちなんだろうと心を掴まれました。

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映像ディレクター・きたむらゆうじさん

「この人誰?」にならないような画作り

——制作はどのように進行していったのでしょうか?

窪田:企画を詰めた上で、まずはどういう演出でやるか、どういうプランニングでやるかを正田さんにご相談しました。

正田:特に議論になったのは画作りでした。ポートレートと映画タイトルの組み合わせと聞いて、「これはチャレンジだぞ」と思ったんです。

というのも、今回撮るのは一般の方。普通の人を撮ってそこに映画のタイトルが載っても、その人に興味を持てなかったら「この人誰?」となってタイトルも入ってこないと考えました。かつ、普通の人だからこそ、エモーショナルすぎても、かっこよく撮りすぎてもよくないですから。

——確かに、一般の人だからこそ、興味を持つきっかけは必要ですね。

窪田:企画書の段階では、もっと顔に寄った写真を想定していたんです。紙の上で4〜6個のラフを並べる分にはそれでも成立しているように見えたんですが、六本木にはこれが60枚近く並ぶ。すると、「この人誰?」の方が勝ってしまうんです。

正田さんは撮る人なので、その感覚を直感的に理解されていました。画面の中に映る情報量を大切にし、「この人を知るには、これが必要だという要素を含めて切り取りましょう」とご相談いただけたんです。

かつ、現場ではそれを一人ひとりに向き合って丁寧にやってくれました。その場で初めて会った人を、どんな人か知り、どこでどう撮るか、論理的というよりは感覚的に判断を重ねてくれたおかげで、一枚一枚の写真がとても味わい深い。その人はどういう人かを感じられる写真に仕上げていただけました。

正田:僕は、その人の人生がわかるぐらいの写真にしたかったんです。テスト撮影で一人目を撮った時点で手応えはありました。「ドラゴン 怒りの鉄拳」の人です。

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正直、ここまで任せていただける仕事ってめったにないと言えるくらい、任せていただきました。自由度がある分細かく確認をしましたが、8日間ぐらいの撮影日の中で、途中くらいからは確信を持って撮れたと思います。

個々と向き合ったからこそ生まれた51枚

——今回の撮影は、その人と会ってから、どこでどう撮るかを決めてたんですね。

正田:「何時に○○駅で、この人と待ち合わせしてます」だけが分かっていて、会ってから全部考えました。すぐ決まるときもありますが、決まらないときは30分近く歩き続けたこともありました。スタッフが少人数で、小回りのきく体制だったおかげでもあります。

たとえば、「シャイニング」の人のときは、待ち合わせ場所から1.5kmほど歩いてこの壁をみつけ、電話して車で向かってもらいました。

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——場所はどのように決められていたのでしょうか?

正田:人によりますね。映画から場所を考える場合もあれば、何も考えずに「ここだ」という場所で撮ることもありました。瞬発力でしたね。

「フォレスト・ガンプ」の人は、この場所を先に決めたら、たまたま好きな映画が「フォレスト・ガンプ」で、たまたまうしろに船があったんです。狙った場合と狙っていない場合、両方ありますが、どれもいい画になることを考えて選んでいきました。

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——一人ひとりの撮影に、物語があるんですね。

正田:しかも、映画の話になると皆さん、「自分がなぜこの映画を選んだのか」をすごいいい表情で話してくれて。そこから、映画の思い出や、自分は最近離婚して…といった、身の上話をしてくれました。時間にしたら数分ですが、映画一つをきっかけにこんなに深い会話ができるのかと驚かされました。

そういうことも、撮影日の日報として窪田さんには報告し、写真と合わせて「この人はこういう人です」と可能な限り共有していました。

窪田:僕自身「人生と映画」というタイトルは少し大げさかなと思ったんですが、正田さんの日報をみると、みなさん結構深い想いや意味があったりするんです。元々、人生の転機で見た作品が挙がるかなという仮説を持っていたんですが、捉え方はそれぞれで面白かったですね。

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撮影時の様子

写真を映像に。鍵は「間」にあった

——そこから映像化にあたってきたむらさんに依頼を?

窪田:グラフィックができる頃に、「シネアドにも展開しよう」という話になり、きたむらさんに相談させていただきました。「こういう世界観のフォトギャラリーを展開します」とお見せしつつ、これを使ってシネアドを作りたいと。

きたむら:最初連絡をいただいたときに、「写真の素材が決まってるんだけど、人感を描きたくて一緒にやりたい」と言っていただいて。それがありがたかったのに加え、出稿先の六本木・大江戸線エスカレーターは個人的にも好きな媒体だったので、その点でも面白いなと思っていました。

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エスカレーターって一定の速度で動くので、掲示されるのはスチールでも、そこには時間軸がある動画的な体験だと思うんです。僕は、そのエスカレーターでみる感覚を映像化できればいいなと考えました。特に今回はこの写真の良さ、力強さを生かして表現したいという意図もあったので、そこから考え始めました。

——進めていくなかで、議論になった部分や悩まれた箇所はありましたか。

きたむら:人感というキーワードと写真から、いろいろな方向性は探りました。人感という意味では、写真に対して一言二言だけ「その映画を好きな理由」の声を載せるのもおもしろいんじゃないかというアイデアもありましたね。

写真と人感のバランスを、どこに落とし込むか。映画に関するコメントを入れるもの、映画のタイトルを読み上げてもらうもの、一切無音でタイトルだけがあるもの…いくつかのパターンを出しながらすりあわせていきました。

最終的には、窪田さんの中で明確に「いい写真が撮れている」という感覚があると感じ「無音で静的な、美術館で流れるようなものがいいんじゃないか」とお話をし、まとめていきました。

窪田:つくり手って、つい要素を足したくなるものだと思うんです。でも今回きたむらさんに依頼したのは「足せない仕事」でした。ただ同時に「足せないけど、何かしてほしい」という期待もあるので、そのさじ加減はすごく難しかったと思います。

きたむら:簡単ではなかったですが、わりと楽しくやれた感覚があります。足せない分、ひとつひとつの要素にもこだわれました。特に“間合い”は力を入れています。

今回は、ポートレート一つ一つと対峙しつつ、その画から想起する時間が必要です。他方で、エスカレーターが一定の時間で動いている感覚や、次の作品が力強く飛び込んでくる印象も必要になる。間はとても重要だったんです。そうした細かな調整を積み重ねているので、手数は多くはないものの、試行錯誤は結構しましたね。

写真を通し出会えた「新たな一面」

——世に出て、得られた反響や振り返って感じられたことはありましたか?

窪田:出演してくれた方からは、「参加してよかった」という声をいくつかいただいたり、周りの友人が喜んでくれたといった声がありしました。中でも印象的だったのが、「その人のイメージがちょっと変わった」と言われたというお話です。

つまり映画のタイトルとその人の表情から「こういう人だったんだ」と今までとは違う新たな一面を見たのでしょう。そういう契機にできたのは、嬉しかったですね。

あとは、このギャラリーをみた人はきっと「U-NEXTってこんな感じだっけ?」と思ったはずです。今回は「U-NEXTは映画がすごい好き」で、「映画が好きな人を大切にしたい」という想いだけを、とにかく表現しました。それが響くものにはなったのではと思います。

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正田:仕上がったものに対しては、「写真に映画タイトルがのるだけで、こんなにおもしろくなるんだ」という発見がありました。タイトルがあるだけで人生の奥行きがみえる。写真だけでは伝わらないものが、しっかりと伝えられる、ちょっとした発明のようにも感じました。

反響でいうと、結構自分の周りでも見にいってくれた人がいたのはありがたかったです。撮った直後は「どこまで伝わるのかな」という不安もあったんですが、いい伝わり方ができたんじゃないのかという実感があります。

きたむら:僕の場合、今回は「自分がやりました」と特に言わなかったので直接受け取ったものはないんですが、強いてこの機会に言うなら、僕が制作する上で一番気になっていたのは、正田さんがどう感じるかだったんです(笑)。「写真を使われるのいやだな」と思われないか…そこはかなり気にかけました。

正田:「これ映像にしようと思う」と聞いたとき、「相当難しいんじゃない?」と正直思っていたんです。写真だけで映像になるのかと。でも仕上がったのをみたら、ちゃんと作品として楽しめるものになり、かつ、より膨らんだものになっていた。嬉しかったのはもちろんですが、驚きも大きかったです。正直、相当な技術と感覚的なものが必要だと思うので、素晴らしいなと。本当にありがとうございます。

「偶然の出会い」を生む場への期待

——最後に、今回の「人生と映画展」に携わった経験を踏まえ、今後U-NEXTをどう知ってほしいか、一言コメントお聞かせください。

窪田:今回仕事をしてみて、改めて感じたのが「U-NEXTは伝わってないところがまだまだいっぱいある」ということです。単純にタイトル数が多いだけに見えるかも知れませんが、それだけじゃない。

ほかにも映像配信サービスを展開する会社はありますが、U-NEXTは日本発としておそらく日本の人と一番向き合っているんじゃないかと思っています。僕の役割はそれを少しずつ紐解いて伝えることでもあるので、もっとU-NEXTを知っていただきたいですね。

正田:冒頭にもお伝えした通り、僕が会員になって印象的だったのは、やはり映画のタイトル数がとても多いことでした。でも、それは今の時代とても貴重だと思うんです。

最初に撮影した人は、本棚にたくさんの映画のDVDを並べ、映画のポスターも貼るような映画好きの人でした。彼に「どうしてそんな映画好きになったの?」と聞くと、たまたま映画館やテレビで出くわしたものが良くて、そこからどんどん興味を持って深めていったそうです。

でも、今はそういった偶然の出会いがどんどん少なくなっている。U-NEXTはそういった偶然の出会いが起きる数少ない場だと思うんです。それによって人生を開拓したり、人生観すらも変えるきっかけにもなるかもしれない。そういった機会を提供する存在になってくれたらいいなと思います。

窪田:たしかに、U-NEXTをきっかけに、将来映画監督になったり映像作家になったり、フォトグラファーになったりする人が出てくるといいなと思いますね。「昔よくU-NEXTでみててさ…」といったエピソードとともに、カルチャーを育てる場になるといいなと思います。

きたむら:その意味でも、僕としては、ニッチなものを変わらず世に届けてほしいですね。今って長編・短編問わず、映像をつくったり、発信したり、見たりする機会がどんどん増えてきています。ニッチなものを作ったり発信する人にとっては、こういったプラットフォームの価値はとても大きい。U-NEXTがそういった作り手にとっても良い場になっていったら嬉しいなと思います。

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