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U-NEXTのブランドはやっとスタート地点に辿り着いた——アートディレクター・Nicolas Gonin

2020年4月、U-NEXTはミッションとバリュー、そしてビジュアル・アイデンティティ(VI)を刷新しました。

遊び心・フレキシビリティ・インパクト・ユニークネス。このデザインコンセプトの策定から制作までを担ったのは、U-NEXTのアートディレクター ニコラス・ゴニン(Nicolas Gonin)です。

ニコラスはフランスの大手広告代理店で、企業から行政機関まで、幅広いクライアントのVIデザインを手掛けてきました。

フランスで実績を積んでいた彼は、なぜ海を渡りU-NEXTで働く道を選んだのか。これまでのキャリア、そして終えたばかりのブランドリニューアルプロジェクトの裏側まで話を聞きました。

クライアント企業の“幕の向こう側”を知りたくなった

——そもそも、デザイナーになろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

明確なきっかけはないかもしれません。16歳くらいからアートやデザインに興味はあって、高校卒業後はデザイン系の大学に進みました。

ただ、その時点では具体的に就きたい仕事のイメージは持っていなかったですね。アートに携われたら良いなと、ぼんやり描いていたくらいでした。

——大学で学ぶなかで、より明確になっていったのでしょうか?

そうですね。タイポグラフィーの授業が、デザインの道を選ぶきっかけになりました。

ポスターや雑誌広告に載っている文字の形や色、配置、質感に、メッセージが込められている。その細部に意味を宿していく作業に興味を持ったんです。結果、大学時代の後半はタイポグラフィーデザインに没頭。

過去の優れた作品に触れるなかで、広告制作からCIやVIのデザインにも関心が広がっていきました。それらの領域に幅広く携わるため、卒業後はフランスの大手広告代理店にジョインしました。

——卒業後からU-NEXTに入社する前に手がけた仕事のなかで、特に印象的なものはありますか?

二社目のBETC(編注:フランス最大手の広告代理店)で携わった仕事は印象的なものが多かったですね。

一つは、パリ装飾芸術美術館(Muséedes ArtsDécoratifs)のロゴ、VIのリニューアルです。“古びた食器の集まる美術館”といったイメージを転換するため、フレッシュとトラディショナルが共存するビジュアルを目指しました。

アートが好きで今の仕事に辿り着いた僕にとって、美術館との仕事ができたのは幸運なことでした。

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もう一つは、BETCのオフィス移転に合わせたロゴとVIのリデザインです。過去のアイデンティティを踏襲しながら、より印象に残るビジュアルへとアップデートしていったものです。

このとき初めて、クライアントワークではなくインハウスデザイナーとして、ロゴとVIの制作に携わりました。自分たちのアイデンティティをどう表現するか、社内のメンバーと密にコミュニケーションしながら形にしていく。クライアントワークにはない面白さを感じました。

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——具体的には、どのような違いがあったのでしょう?

それまで僕が担っていた案件は、社内の意思決定プロセスには携われないものがほとんどでした。あくまで外部のデザイナーなので“幕の向こう側”には入れてもらえません。一方、BETCの案件では幕の向こう側に自ら足を踏み入れ、リデザインの方向性やコンセプトから議論し、デザインを進める役割が求められたんです。

当時は働き始めて数年経ち、広告代理店でのクライアントワークを経験し尽くした感覚を抱き始めていた頃でした。だからこそ、より新鮮に感じたのかもしれませんね。

自由と信頼を与えてくれたのがU-NEXTだった

——その経験が、BETCを退職を後押ししたのでしょうか?

そうですね。僕はいずれ自分でデザインスタジオを立ち上げたいと考えていて、そのためには、インハウスデザイナーの経験も積むべきだと考えたんです。

加えて、少し漠然としているのですが、キャリアに大きな“変化”が必要だと感じたんです。今とは大きく異なる環境に身を置きたい、と。そのなかで浮かんだのが、東京への移住でした。

——デザイナーとしてキャリアを積むなら、東京以外にも魅力的な場所はありそうです。

もちろん、ロンドンやニューヨークといった都市も頭をよぎりました。ただ、18才のときに旅行で東京を訪れて以来、独特な文化に関心を持っていたことや、変化の大きさを考えると、東京は最も魅力的な選択肢に思えたんです。

——転職活動はどのように進めたんですか?

これまでのスキルや経験が活かせて、日本語が堪能でなくても働ける企業を探していきました。その候補の一つがU-NEXTだったんです。

他に検討していた企業と比べ、ユーザーの規模や社会に与えるインパクトが大きく、とくに興味を持ったのを覚えています。東京のオフィスで堤さん(代表取締役社長 堤天心)と面談を重ねるなかで、漠然とした関心が、転職への意思に変わっていきました。

——特にどのような点に惹かれたのでしょうか?

一つは、改善の余地がたくさんあったこと。とくにブランディングです。ユーザーにどのように語りかけ、関係を築いていくのか、見直しが必要なフェーズだと感じました。実際にサービスを使ってみても、ユーザーに届けているメッセージに一貫性やインパクトが欠けている印象を受けたからです。

また、こうした話を堤さんに提案すると、喜んで話をきいてくれました。その姿勢からは、彼がデザインやブランディングを重視し、新しいチャレンジを歓迎するであろうことが伺えました。改善に向けた自由と信頼を与えてくれそうだな、と。

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U-NEXTのオフィスにて

——入社してからもその印象は変わりませんか?

むしろ、想像以上でしたね。面談からブランディング関連の案件に携わるだろうと思っていました。けれど、実際はミッションやバリューから刷新するプロジェクトにもアサインされ、ロゴからデザインイメージまで一貫して任せてもらえたんです。

嬉しいサプライズでしたね。「チャレンジを歓迎する」と言う経営者は多いですが、実行できる人は限られていますから。

勇敢さと柔軟さ、一貫性あるデザインを形にするまで

——ブランドリニューアルはどのように進めていったのでしょうか?

入社して数ヶ月は、ブランディングやデザインに携わる社内のメンバーと話して、現状の課題を探りました。

そこで浮かび上がったのは強いアイデンティティの必要性です。当時は動画や電子書籍、音楽など、提供するコンテンツごとに異なるメッセージを発していて、U-NEXTというブランド全体の声が聞こえてこなかった。指針となるアイデンティティが不在なのだから揃えようがないのも当然ですよね。

課題は明確だったので、コンセプトの策定はスムーズに進みました。「遊び心、フレキシビリティ、インパクト、ユニークネスの4つがすぐに浮かびました。

——それぞれの言葉に込めた意味、それらをどのようにVIに反映したのかについて教えて下さい。

「フレキシビリティ」は幅広いコンテンツで利用できる柔軟さです。今回のVIは、映像や電子書籍や音楽など、U-NEXTの提供するコンテンツによって、色やジオメトリックパターンが変わります。幅広いコンテンツを扱うU-NEXTの独自性を伝えつつ、各々のコンテンツへの敬意も込め、あえてブランドカラーを固定していませんでした。

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そこで必要になるのが「一貫性」です。カメレオンのように色や形を変えても、見かけたらすぐに「U-NEXTだ」と認知してもらえるデザインにしたいと考えました。

また、U-NEXTはスマホやPC、テレビ、印刷物など、幅広いタッチポイントを持っています。それぞれのタッチポイントに合わせた表現を可能にしつつも、一貫性を保たなければいけません。

そのために用いたのが、印象的なジオメトリックデザインとアニメーションです。色以外の要素を用いて、U-NEXTらしさを表現しようと考えました。

「遊び心」と「ユニークネス」はひと目でそのブランドだと認知できるような、印象に残る大胆なデザインであることを示しています。U-NEXTはNetflixやAmazonに比べて知名度は低い。だからこそ、目に飛び込んでくるようなデザインが必要だと考えていました。

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——コンセプトの策定はスムーズだったとのことですが、ブランドリニューアルを行うなかで、特にチャレンジングだったことはありますか?

コンセプトとVIの草案をもとに、社内のメンバーと議論していくフェーズですね。

新しいコンセプトがブランドリニューアルの目的に対して適切であるか、そのコンセプトをVIが十分に体現できているか、クリエイティブとしてアウトプットしたときに違和感はないか。議論とブラッシュアップを繰り返しました。

マーケティングからUI,UXデザインにいたるまで、クリエイティブに関わるあらゆるチームが、コンセプトに共感できなければ、それらはすぐに形骸化してしまいますから。

ブランドリニューアルを終え、やっとスタートラインに立てた

——そうしたブラッシュアップを経て、完成した成果についてどう感じていますか?

他のストリーミングサービスにはない、大胆なデザインになったのではないかと思っています。とくにロゴだけではなく図形で自己主張しているところですね。

NetflixやAmazonといったサービスはロゴでアイデンティティを伝えている一方、U-NEXTはロゴよりも幾何化学模様の主張を強めました。その点で少しユニークで、プレイフルなデザインになったのかなと思います。

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——そこからユーザーにどのようなメッセージを受け取ってほしいですか?

U-NEXTは、新しいデザインイメージが体現するようなプレイフルな体験を届けています。コンテンツの本数が多いといった機能的価値ではなく、U-NEXTというブランド自体を好きになってくれたら、この上なく嬉しいですね。

そうなって初めて、今回のブランドリニューアルが成功したといえると思っています。それには当然ですが一定の時間がかかる。その意味で、僕はやっと今スタートラインに立てたと思っています。

——ブランドリニューアルを終えてからが本番なのですね。

まさに、ブランドリニューアルはマラソンのようなものだと感じます。
例えば、ナイキのロゴも制作された当初から、誰もが認知できるロゴだったわけではありません。素晴らしいマーケティングを経て、あれだけアイコニックなものになったわけです。

裏を返せば、どれだけ優れたロゴやVIも、運用次第では活かしきれない可能性もある。日々のマーケティングやクリエイティブ制作において、VIの根底にあるコンセプトへの理解を深め、必要に応じてブラッシュアップしていく。そうした継続的な取り組みが行われず、コンセプトを意識する機会が減っていけば、ブランドリニューアルは長期的には失敗してしまうでしょう。

なので、今後はいかに新たなブランドを運用していくかを考える仕事に力を注ぎたいと思っています。手を動かすよりも、ブランディングや広告のためのクリエイティブをレビューし、一貫性が保つ役割ですね。

これまで、僕はブランドリニューアルの“その後”に携わった経験はありません。クライアントワークでは納品が終われば一段落でしたから。その意味で、これからが僕にとって最もチャレンジングになるはずだと、ワクワクしていますよ。


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株式会社U-NEXTのコーポレートnoteです。 https://www.unext.co.jp/

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