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一部しか楽しめない“最高”ではなく、すべてのユーザーのより良い体験を——CTOが語るU-NEXTの配信品質

あらゆるデバイスへ安全にライブ会場の臨場感をお届けする——。

この言葉を掲げ、U-NEXTは放送・配信史上最高峰の映像解像度、音声ビットレートを採用した『PREMIUM LIVE EXPERIENCE(プレミアム・ライブ・エクスペリエンス)』の提供を、2020年10月よりスタートしました。

これまでにない品質を目指した取り組みでありながら、長年配信品質の向上に努めてきたCTO(Chief Technology Officer)のLi Rutong(リー・ルートン)は、「あくまで、いまやるべきもののひとつでしかありません」と言います。

その真意、U-NEXTが配信品質にこだわり続ける理由を聞きました。

高品質への評価が生んだ、最高峰への挑戦

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——まずは、PREMIUM LIVE EXPERIENCEをはじめたきっかけを教えてください。

Rutong:質に対する期待からです。今年6月のサザンオールスターズを皮切りに、U-NEXTでは100近いライブ配信案件を手掛けてきました。その中では、アーティスト・ユーザーの双方から、画質をはじめとする配信品質に関して評価をいただくことが多かったんです。

この声を捉え直すと、みなさん本当は可能な限りリアルな体験を届けたいと思っていたり、よりリアルに楽しみたいと感じていた。この期待に、我々もさらに高い水準で応えたいと考えたんです。

実際、技術的観点を見てみても、我々は長年VOD(Video on Demand/動画配信)の品質に関して研究を重ねてきており、ライブにはやれることがまだまだあると感じていました。そこで、高品質配信の構想が始まったんです。

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——1080pの映像解像度、448Kbpsの音声ビットレートは放送・配信史上最高峰です。これを実現するには、どのようなハードルがあったのでしょうか?

Rutong:ユーザーのデバイスから撮影現場まで、順番にご紹介させてください。

まずは、ユーザーの持つデバイスを知ること。“最高峰”といっても、それを楽しめる人がいなければ意味がありません。U-NEXTユーザーが楽しめる、適切な"最高峰”はどこにあるか。何度もテストを重ねて、目指すべきラインを探りました。

次は、配信の処理。通常、配信の仕組みを構築する場合、市販の商用ソリューションを組み合わせて映像を処理します。ただ、この方法の場合、処理を重ねるごとに画質が劣化してしまうんです。そこで、我々は画質の劣化を抑えられる処理を自社で開発。ユーザーに届くまでの間に起こる劣化を最小限に抑えました。

また、配信プロセスではリスク管理も重要な要素となります。なぜなら、ライブはリアルタイムで楽しめてこそ価値があるものだから。「調子が悪いので後で見てください」とはいきません。ただ、配信品質を上げれば上げるほど、システムの負荷も高まるので、リスクは上がる。そこで、通常の倍以上の体制でシステムを冗長化し、リスクをコントロールしています。

最後は、現場での収録品質。一般的な収録現場はテレビ放送の品質を基準にするのですが、我々が届けようとしているのは、それよりはるかに高品質のもの。放送基準ではダメなんです。そこで、収録のガイドラインをつくったり、技術援助をしたりして、収録現場も支援します。特に、U-NEXTが出資/スポンサードしている場合には、品質制御にも積極的に携わっています。

——アーティストサイドも巻き込んで、高品質を目指さなければいけないんですね。

Rutong:そうですね。実際、PREMIUM LIVE EXPERIENCEの初回を飾っていただいた松田聖子さんサイドは、当初から良い音質を目指す姿勢を明確にもたれていました。

高品質な収録は、制作側にとってチャンスでもあるんです。というのも、今はスマホでさえテレビ放送の画質を超える映像が撮れてしまう時代。制作側が持つ高品質な機材は、なかなかポテンシャルを活かす場がないんです。今回のような機会は、その可能性を最大限引き出せるチャンスともいえるからです。

もちろん、放送品質がダメというわけではありません。放送は国の決まりなどもあり、数十年単位で使い続けられる規格でないといけない。どうしても基準を低めに定めざるを得ないんです。ですが、配信の世界は数年ごとに買い換えられる数万円のデバイスで、どんどん最新のクオリティを楽しめる。配信だからこそ、質を追求できるんです。

「日常を引き上げる体験」を届けるために

——先ほど、U-NEXTは長年VODで品質を研究してきた歴史があるとお話しされていました。そもそも、なぜ音質や画質を突き詰め続けてきたのでしょうか?

Rutong:「配信は便利だけど、画質はイマイチ」という固定概念と長年戦ってきたからです。画質や音質にこだわりを持つ人からすれば「こだわるなら円盤(Blu-rayなど)か衛星放送」が当たり前だった。私たちは、それを覆そうと突き進んできたんです。

特にここ2〜3年で、視聴デバイスの性能は飛躍的に進化。今みなさんの手元にあるデバイス・環境を活用すれば、配信でも円盤や衛星放送よりすぐれた品質で映像を楽しめるようになりました。それに合わせて、我々のサービスも急激に進化してきました。

——視聴デバイスの性能は、そんなに進化したのでしょうか?

Rutong:例えば、今のテレビやスマホは画質や表現力の面で少し前の業務用モニターに肩を並べたり、上回ったりすることも少なくありません。手元にあるデバイスには、驚くような性能が盛り込まれている。ただ、そこに気づけていないんです。

なぜなら、サービス側がまだまだデバイスのポテンシャルを引き出せていないから。ネット配信が主要な視聴手段になってくる中、サービス側はその可能性をしっかりと引き出し「配信は便利で画質も良い」という認知を得ていく必要があると思っています。

——配信業界の未来を考えても、ポテンシャルを引き出すことは重要なんですね。

Rutong:はい、最大限に。ただ、ここで注意が必要なのは、8K映像など“最先端”を突き詰めることだけじゃないんです。誰しもが今年発売されたフラッグシップの機種を持っているわけではないですよね。

数年前に買ったデバイスにおける最大値を引き出し、高画質・高音質を目指さなければいけないんです。私たちが作っているのは、「極一部の人だけが楽しめる最高」ではなく、「みなさんの日常を引き上げる」体験だからです。

良い画質や音質は、一度体験すると戻れません。「自分は気にしない」と思っていても、一度いいものを知ると違いが分かってしまうし、今まで悪い質で楽しんでいたことを後悔する。だから、いち早くその品質を知ってほしい。今手元にあるデバイスで本来は楽しめるわけですから、その機会を提供するのはサービス側の使命だと思っています。

でも、今の“最先端”はいずれ日常にになる、継続可能の「最高」を出し続けるために、「極一部の人だけが楽しめる最高」のコンテンツもこっそりと増やしています。

経営のコミットと自社インフラが支える高品質

——画質や音質を向上させる上で、苦労する点はどこにあるのでしょうか?

Rutong:大きくは技術面とコスト面の2つです。技術も多様な観点がありますが、おそらく多くの企業が苦労するのはコストではないでしょうか。たとえば、既存コンテンツの画質を上げるには作品をすべて再エンコードしなければいけません。そのためには膨大な時間と処理コストがかかります。ほかにも、ユーザーにとって最適な品質レベルを探るにはインタビューや調査、テストが欠かせません。ここもコストがかかります。

これらを乗り越えるには、「質に対してコストを割くべき」という、経営側の理解が欠かせないんです。コストを割く姿勢がなければ、できることは限られてしまいますから。

——U-NEXTはどのようにそれらを乗り越えたのでしょうか?

Rutong:まずは、代表の堤さんの存在が大きいですね。彼はそもそも、「最高のプロダクトを作り、ユーザーに届けたい」という強い意志を持っている。そのためであれば「妥協しなくていい」というスタンスの人です。もちろん、コストに対する説明責任は必要ですが、技術側の人間からすると、とてもやりやすい環境なんです。

また、少し遠い話に聞こえるかも知れませんが、サーバをはじめとするインフラを自社で保有ししていることも要因のひとつです。先述の話もクラウドでやろうとするとコストが高すぎて、経営も「やりたいけど、このコストは無理だ」となりかねません。U-NEXTは、今も大量のインフラを自社で運用しているので、他社では考えられないコストで運営できているんです。

——なぜインフラを自社で運用するとコストを抑えられるのでしょう?

Rutong:端的に言えば、必要のないところにお金を使わなくても済むからです。パブリッククラウドサービスは全ての用途において安定性を担保する必要があり、故にシステムの品質基準を高く設定しなければなりません。

もちろん、U-NEXTのサービスには非常に高い品質のインフラが必要ですが、オフラインのデータ処理やエンコードなど「大量に存在するが途中で失敗してもやり直しがきくタスク」を安価にさばくインフラも必要です。

自社インフラなら、用途に合わせたシステム品質基準の設定が可能で、適所適材で品質とコストのバランスを取れます。洗濯機一台を運ぶために10トントラックを借りる必要はないからですね。

——コストを割かなくていいところは抑え、システム上クリティカルだったりユーザーの体験に影響する部分はしっかりと投資する。メリハリをつけるイメージでしょうか?

Rutong:まさに。例えばライブ配信の場合、単にクラウドを使うだけでは安定性や安全性が足りないので、自社のインフラとクラウドの双方を使って冗長化し、全断することがない仕様にしています。ライブはそのタイミングで観られなければライブではなくなってしまいますから。クラウドだけではサービス品質を保証しきれないんです。

このように、常にコストは意識しつつも、経営のコミットがあるからこそ、U-NEXTは質を追求し続けられているのだと思います。

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PREMIUM LIVE EXPERIENCEで用いられたシステムの概要図

「より良い体験」を追い続ける姿勢

——PREMIUM LIVE EXPERIENCEの初回も無事終えられました。画質・音質の追求という観点で、今後、U-NEXTが挑戦していこうとしている領域があれば教えてください。

Rutong:あくまで「こういう姿勢でやり続けます」というイメージですね。みなさんが持っているデバイスのポテンシャルを引き出し続ける。目標を設定し、達成すれば終わりというものでも、新機能をリリースすれば終わりというものでもありません。

各論でいえば、4KHDRライブや多アングルライブといった新機能はありますが、いずれもユーザーの環境的に今やるべきもののひとつにすぎません。

我々が目指すのは、限られた人に「一番いいもの」を届けるのではなく、ユーザーのみなさんに「より良い体験」を届けること。それは時代とともに変わるので、常にユーザーを理解し、それに合わせて最善を尽くしていきます。

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株式会社U-NEXTのコーポレートnoteです。 https://www.unext.co.jp/