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誰もが持つ「マイノリティな部分」を肯定したい──ポンポさん・平尾監督に聞く、映画作りと楽しみ方
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誰もが持つ「マイノリティな部分」を肯定したい──ポンポさん・平尾監督に聞く、映画作りと楽しみ方

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映画の都・ニャリウッド。

この地で製作アシスタントとして働く映画通の青年が、初監督作品を手がけるまでの道のりを描いた、劇場アニメ『映画大好きポンポさん』。

原作マンガが話題を呼び映画化した本作。かわいらしいキャラクターのタッチとは裏腹に、映画だけを糧に生きてきた青年の葛藤をリアルに描くこの作品を、U-NEXTは10月より独占配信しています。

今回は、本作の監督を務められた平尾隆之さんにインタビュー。その製作の裏側や平尾監督自身の映画との向き合い方を、U−NEXT 映画部 部長 林健太郎との対談でお届けします。

これは、あなたがやるべきじゃないですか?

林:今日はお話できるのを楽しみにしていました。どうぞ、よろしくお願いします。はじめに、平尾監督がポンポさんを担当した経緯を教えてください。

(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会

平尾:バンダイナムコのプロデューサー・富澤祐介さんから、「これはあなたがやるべきじゃないですか」と、いただいたのがきっかけです。

僕は独立前、最後に『ゴッドイーター』という作品を担当したのですが、そのとき「自分が描きたいテーマ」のようなものが見えたんです。そこで独立後は、それとマッチしない作品はもう受けないようにしようと考えたんです。その代わり、いろんな人に「自分はこういう作品をつくりたい」と言い続けてきました。

富澤さんはゴッドイーターでご一緒した方で、その話をよくご理解いただいている方でした。僕は比較的ハードめな作風を頼まれることが多いのですが、ポンポさんはそのトーンとは大きく異なる。それを見た時、「富澤さんが自分に持ってきた理由は、テーマ的な部分だろう」と直感しました。

実際、作品を読み込むと自分のテーマにマッチする題材が込められていると強く感じ、お受けさせていただきました。

平尾隆之|1979年香川県生まれ。アニメーション演出・監督・小説家。アニメーション制作会社を経て、『劇場版 空の境界 第五章 矛盾螺旋』(2008年)で監督デビュー。手掛けた主な作品にテレビアニメ『GOD EATER』(2015~2016年)、映画『桜の温度』(2011年)、映画『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』(2013年)など。最新監督作『映画大好きポンポさん』(2021年)。

林:平尾監督の「描きたいテーマ」とはどのようなものだったのでしょう?

平尾:「マイノリティがマジョリティに一矢報いる」というようなテーマです。本作の主人公であるジーンくん(ジーン・フィニ)は、社会からはみ出て映画業界でしか生きていけないようなキャラクターです。彼が監督として成果を上げていく過程で、自分の居場所のようなものをみつけていく物語には、ものすごく共感を覚えました。

今の世の中、ジーンくんとは形は違うにしても、同じような居場所のなさや生きづらさを感じている人はきっといる。だからこそ、是非やりたいと思ったんです。

(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会

林:なぜ、マイノリティに光をあてることに関心を?

平尾:僕自身、マイノリティだと感じていた部分が幼少期にあったからだと思います。小学校低学年ぐらいに吃音がひどく出てしまい、それでからかわれていた時期があったんです。当時は、恥ずかしくて話ができなくなってしまって。そのとき、自分が社会から弾かれてしまったような感覚を持った記憶が強烈にあるんです。そんな当時の僕を救ってくれたのが、映画やアニメーションでした。

林:ご自身がマイノリティ性を感じる経験があったのですね。

平尾:このテーマを掲げるきっかけとなった『ゴッドイーター』は、正直かなり苦しんだ作品でした。

僕のこだわりや様々な事情があり、テレビシリーズにも関わらず放送延期や番組に穴を開けてしまうことになったんです。一時は、「もしかしたら、もうまともな仕事はこないかもしれない」「作品をつくれないかもしれない」と思い詰めた時期もありました。そのとき、自分はなぜアニメをつくろうと思ったかに立ち返って気づいたのが、幼少期の体験だった。

きっと自分はその当時の自分に何かを届けたくてこの業界に入り、今ここにいる。それに気づいてから、「自分はこういう作品を作りたい」と言うようになったんです。

誰もが持つ「マイノリティな部分」を肯定するように

林:なるほど。他方で、今のお話だけを聞くと「マイノリティの方だけに向けた作品」のようにも聞こえるかと思います。ですが、実際の作品を見てみると、誰にでも刺さる映画だと思いました。

そもそも「マイノリティとは何か、マジョリティとは何か」という問いもありますが、誰しもが何かしら弱い部分や生きづらさを抱えている。それでも、何らかの壁にぶつかりながら、頑張ろうとしている。そのすべての人たちに力を与えるものだと感じました。

林健太郎|U-NEXT 映画部 部長。ギャガ、キネマ旬報社を経て、現職に。大抵の映画で泣ける、優しい涙腺が持ち味の44歳二児の父。

平尾:ありがとうございます。僕自身、ポンポさんはそういった「多くの人の中にあるマイノリティな部分」を肯定してくれる作品だと感じていたので、それが伝わったのであれば嬉しいです。

林:映画の中にわかりやすく“敵”がいないのも大きいように感じます。先ほどの「一矢報いる」という言葉からは、マイノリティがマジョリティという“敵”を倒すようなものを想起します。しかし、本作はそうではなく、出てくる人はみんないい人で、起きる出来事を誰も人のせいにはしない。だから多くの人に力を与えるんじゃないかなと感じました。

平尾:それは原作を読み、つくり始めた頃からずっと気をつけていたポイントです。

敵をつくらなくてもおもしろい映画はつくれるはずだし、何よりそこが主題ではないですから。ポンポさんは、マイノリティであったジーンくんが、ある特定の場所で自分を曲げずに、諦めず、突き抜けることで、マジョリティの人たちからも認められていく作品です。

先ほどお話ししたように、どんな人にもマイノリティな部分はある。それはジーンくんのような特殊な環境にいる人だけではありません。夢を追っている人も、一人で努力を続ける人も、マイノリティな瞬間はあると思うんです。本当に成し遂げられるかわからない、時にはいろんなものを犠牲にしているかもしれない、それでも努力が必要な瞬間はあります。

ポンポさんはそういった人たちの背中を押せるものにしたかったんです。

林:とても共感します。その意味で、非常に効いているのが、映画のオリジナルキャラクター・アランくん(アラン・ガードナー)ですよね。彼がいるからこそストーリーに深みが出たように感じます。

彼は言うなれば「イケてる側の人間」なんですが、彼なりに苦しんでいた。それが、ジーンくんが努力し続ける姿勢から影響を受け、前向きに変化をしていく。あそこは一番グッときたかもしれません。

(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会

平尾:そう言っていただけると嬉しいですね。アランくんは、製作陣の中でも、プロデューサーや音響マネージャーの方がお気に入りと話していました。ジーンくんは無我夢中でものづくりをする側ですが、アランくんはその裏で彼に夢を託している側。その気持ちが、重なる部分があったのではないかと思います。

林:もちろん原作のキャラクターだけでも十分に魅力的な作品なのですが、アランくんによって届く人がぐっと広がったと思います。映画づくりに限らず、あらゆる分野で頑張っている人の背中を押すような映画だなと。

平尾:まさにその言葉を聞きたかったんです。映画館での体験って、僕は“体感”だと思っているんです。たとえばヤクザ映画をみたら、映画館を出るときはなぜかみんな肩をいからせて出てくるとか(笑)。なりきってしまうほど、そこで力をもらう。それが映画ならではの体験だと思っています。

ポンポさんを観て出ていくときには、「ちょっと明日から頑張ろう」「ちょっと元気出た」「明日は諦めかけていたあれをやろう」とか、ほんのすこし前向きな変化を届けたい。そう思っていました。

映画作りにおける、灯台の明かり

林:作中では、コルベット監督の台詞に「一人、その映画を一番観てもらいたい誰かのために作れば良い」というものがありましたよね。脚本家の坂元裕二さんも近い話をしていて、『カルテット』は、実在するある10代の人へ向けて書いたそうです。平尾さんは今回、誰のためにこの作品を作られましたか?

(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会

平尾:最初は「マイノリティだった頃の自分」でしたね。それはイコール、今悩んでいたり、マイノリティだと思って辛い思いを抱えている人になる。特定の個人という感覚は強くありませんでしたが、「誰か一人」をあげると、「過去の自分」だと思います。

コルベット監督の言葉は僕自身とても共感するものがあります。映画って、作っているとだんだんわからなくなっていくんですよ。キャラクターに感情移入しすぎて、そもそもこれってどういうシーンだったっけ……、主題ってそもそも何だっけ……となったりしてしまう。

そのとき、灯台の明かりとなるようなものが必要です。誰か一人のためでもいいし、仮想敵でもいい。「この作品に勝つ」という気持ちでもいいと思うんですけど。それは必須だなと思います。

林:平尾さんにとって、それはかつての自分だった。

平尾:あとは裏テーマ的に、お話をいただいた富澤さんを「最初の観客」と考えていた節はあります。彼はバンダイナムコエンターテインメントの人なので、今回のクライアントではありません。かつ、発起人ではあるけれど出資もしていないので、本当に熱意だけでこの企画を作ってくれた人です。

しかも、富澤さんは僕が『ゴッドイーター』で苦しんでいたときの原作側のプロデューサーだったので、テレビ放送が延期するなど混乱状態の収拾をつけてくれた人でもある。本来だったら「二度と仕事したくない」って言われてもおかしくない状況だったのですが、「次も機会があればやりましょう」と言ってくださり、この機会につながった。

だからこそ、富澤さんに喜んで欲しいという思いは大きかったです。

製作に必要なのは、脳内のライブラリ

林:今回ポンポさんを作るために観た映画作品などはありましたか?

平尾:僕の場合、基本的にはあまりそういうことを気にせず映画を観るようにしています。なぜなら、インスピレーションを得られるのは、結局自分の中にあるライブラリからだからです。

たとえばあるシーンで悩んだとき、別の映画を参考にするには、自分が今まで観た作品の記憶をたどり、同じジャンルや系統の作品を見つけ見直します。

自分が思い描いていたシーンと「何か違う」と思ったとき、その「何か」は比べている対象が存在するはず。それを思い出せたり、すぐ取り出せたりすることが重要です。「あの作品で感じた感動や共感を形にしたいんだ」とか、「それを超えたいんだ」とかが見えると、作品にも反映しやすくなりますから。

なので、どこまでいっても、自分の記憶や心に刻み込まれている必要があるんです。

林:今回、映画のパンフレットにあるインタビューだと『グッドフェローズ』と『127時間』『セッション』が参考例に挙げられています。

平尾:そうですね。映像面では、マーティン・スコセッシ監督の『グッドフェローズ』とダニー・ボイル監督の『127時間』から影響を受けています。特に、ダニー・ボイル監督はカッティングや音楽の使い方がとてもスタイリッシュで個人的にも好きな作品が多い。ポンポさんでは『127時間』のオープニングシークエンスを参考にさせていただいています。

一方、スコセッシ監督は映画の出だしを、途中のシーンから始めることがあります。あれがすごく興味をひかれるなと思い、その映像手法の面で影響を受けています。

『セッション』は物語面で参考にさせていただきました。あの作品は、仕事に対する姿勢として、個人的にも理解できるなと感じていて。周りの人からすると「やりすぎじゃないか」と思われても、「これぐらい、まだまだ」と思ってしまう部分にはとても共感します。

実際ポンポさんを制作する上でも、「それ以上やらなくていいんじゃないですか」って言われることはよくあったんです。例えば、美術のつくり込みで、僕と監督助手の三宅さんは、1枚ずつ手を入れました。

プロデューサー含め、周りには「これはOKでいいんじゃないか」といわれたのですが、「いや、もっとやれる」となってしまって。人にお願いしていたら「このあたりにしておきましょう」と言えるんですが、自分でやるとなると、「あと何十時間働けばいいから」という気持ちに、ついなってしまうので。

琴線に触れる作品と出会うには「ムダを愛する」

林:ライブラリを増やすためにも、平尾監督は様々な作品を目にされているかと思います。そのなかで、どのように自身の「琴線に触れるような映画」を見つけていらっしゃいますか?

平尾:これは難しい質問ですね……。どんな映画であっても、自分の中で「何が合って、何が合わないか」を考え続けていることかもしれません。

最近、映画を観に行って、つまらないと「金返せ」という方がいらっしゃるかと思います。僕はいままでそういう気持ちになったことがなくて。言い換えるなら、「つまらないもの」であっても、それはそれとして楽しんでいるんです。

つまらない話でも、「お話はつまらない」が、「この俳優さんは素晴らしい」、「カメラワークはすごいよかった」という特筆すべき部分は必ずある。それをきっかけに、俳優さんを調べてみたり、監督を調べて別の作品を見ていくと、そこで奇跡的な出会いがあったりする。

要は、自分の感性にハマる要素を見つけ出していくには「つまらない作品」も糧になるんです。もちろん今は観る人の時間が昔と比較して限られるので、そこを避けたくなる気持ちもすごく分かります。でも、同時にそれ自体を楽しめるとどうかな?と思っているんです。

林:100%賛成です。本当、その経験こそが大事ですよね。

今は「金返せ」に加えて「時間返せ」ということも多く言われますよね。それくらい皆「効率」を重視している。失敗したくないからとレビューの良い作品から観たり、映画賞をとっているものを選んだりする人も多いと思います。もちろんそれは、良い作品である可能性が高く、外す割合は低い。でもそれだけじゃもったいないとも思うんですよ。そこからすこし派生させてみると、芋づる式に興味範囲は広がっていく。それが面白さじゃないかなと。

U-NEXTをはじめとする、動画配信サービスではレコメンドシステムによって「間違いのない作品」と出会う確率はとても高くなっています。一方で、そことは大きく外すかも知れないけれど、「奇跡的な偶然の出会い」を生むのがとても難しくなっている。

僕たちは「レンタルビデオ店の最終進化形」になりたいと掲げているんですが、この言葉にはそういった「偶然性」のようなものを生みたいという意図もあります。たまたま興味のある映画の横に置かれていた作品だったり、店員の趣味趣向で紹介されている作品など、レンタルビデオ店にはお客さん側の意図とか関係ない「出会い」がちりばめられていた。そんな瞬間こそが「豊か」だと思うんです。

平尾:たしかに、店員さんおすすめコーナーとかってありましたよね。特に興味があったわけじゃなくとも、「ちょっとみてみようかな」と新しい映画と出会うきっかけになっていました。あの感じ、すごくよかったですよね。

映画は豊かさを紡ぐもの

林:あとは、効率という観点で言うと、最近よく耳にする「倍速再生」ももったいないと感じています。

そもそも映画って、時間的なコストパフォーマンスが高い媒体なはずなんですよ。90分や120分で、自分の人生では一生起こり得なかったようなことを追体験できるよう凝縮して作られている。だからこそ、その2時間は等速で見るほうが追体験の質が高く、確実に得るものは大きい。

かつ、そこで得られるものは、きっとその人の人生にとって長きにわたって効いてくる。単なる情報ではなく、感覚や教養、知恵になると思うんです。

平尾:言い換えるなら、豊かにしてくれるということですよね。すごくわかります。作り手としても、等速でみてほしいですね。

林:でも、ポンポさんを見たらそう思ってくれるんじゃないかと思いました。「この5秒にどれだけの意味が込められているのか」がとても分かる作品ですから。

平尾:そう思っていただけると嬉しいですね。

(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会

林:前半に、ナタリー(ナタリー・ウッドワード)が、水たまりではねる印象的なシーンがありますよね。映画を一緒に見たうちの小学生の息子は、あそこにアランがいたことが気になっていたそうなんです。恥ずかしながら僕は最初気づいていなかったんですが、次男はそれがとても印象的だったようで。

そういった部分も等速だからこそ気づけますし、それは映画後半でぐっと活きてきて、あのときのアランの表情の理由が見えてきたりする。そういった豊かさを是非感じて欲しいです。

何よりポンポさんは、本編の尺(長さ)自体に意味がある映画ですからね。

【平尾隆之監督セレクト】ポンポさんに影響を与えた作品10選
1. タクシードライバー(スコセッシ、劇中でも使用されているので)
2. 127時間(ダニーボイル、トランジションなど参考にしました)
3. グッドフェローズ(スコセッシ、冒頭に物語の途中を持ってくる方式)
4. セッション(ディミアン・チャゼル、テーマ的なところ)
5. スティーブ・ジョブズ(ダニーボイル、演出など参考にしました)
6. ラ・ラ・ランド(ディミアン・チャゼル、ハリウッドの描写など参考にしました)
7. プロヴァンス物語/マルセルのお城(劇中に出ています)
8. 情婦(ビリーワイルダー、台詞回しやキャラクター描写などにユーモアや人情味があって、影響受けました)
9. 殺人の追憶(ポンジュノ、何度も見直しています。)
10. ダークナイト(ノーラン、こちらもエンタメとテーマをうまく融合させた好きな作品です)


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